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緊急連載 「ゲン」閲覧制限 <上> 問われる理念

描写を問題視 閉架決定

 全国に波紋を広げた漫画「はだしのゲン」をめぐる松江市教委の閲覧制限問題。市教委の判断の問題点や、学校現場の対応を通じて見えた学校図書館の在り方を探る。

 「考え方としては間違っていなかった」。市教委が昨年12月とことし1月の2度、49小中学校に求めた「ゲン」の閲覧制限。要請の撤回を決めた26日の教育委員会議の後の記者会見で、市教委の清水伸夫教育長は、学校現場に制限を要請した当時の市教委事務局の判断を一部肯定した。

 「学校と協議していればよかった」。結論を導いた教育委員会の内藤富夫委員長も、あくまで「手続きの不備」を強調。市教委の判断そのものは「不当な介入とはいえない」との考えを示した。

手続きの不備

 学校への教育行政の指導がどこまで許されるのか。知る権利や図書館の自由を侵す可能性はないのか。重要なテーマを含んだ問題に16日の発覚以来、10日間で全国から約3千件の意見が寄せられた。批判が約7割を占めた。

 だが、教育委員会は「手続きの不備」を主な撤回の理由とした。「重いテーマでは意見がまとまらなかった」と内藤委員長。1時間45分に及んだ会議では知る権利と表現の自由も議論されたが、意見は一致しなかった。

 「『ゲン』を読み、一部の表現に素直に驚いた」。26日の会議であらためて要請の決断理由を問われた市教委教育総務課の須山敏之課長は答弁した。その後、市教委は教育委員や有識者に相談することなく、閲覧制限を要請していた。

 事態の発端は「ゲン」の図書館からの撤去を求めた昨年8月の陳情だった。同12月に全会一致の不採択となったが、市教委は議会への配慮もあったと認める。不採択の裏には「ゲン」に対し「不良図書」「平和教育の参考書」とする市議の否定・肯定の両論があった。「(閲覧制限をする一方)平和教育でも使う。両方の意見を尊重した」。古川康徳副教育長は22日の記者会見で説明した。

 一部の描写を問題視した事務局が、議会の声を参考に要請を決めた―。取材からはこうした意思決定の過程が浮かび上がる。「撤去は駄目でも閲覧の制限なら学校の自由を侵さないと思ったが、甘かった」。古川副教育長は、決断の背景に知る権利や表現の自由への認識が不足していたことを認める。

「現場に介入」

 さらに内部協議の過程では「過激なシーンのある巻だけ閉ざすのは検閲に当たる」との意見もあり全巻を一律に書庫に収める閉架を求めたという。だが、市内のある校長は「全部、一部にかかわらず現場への介入」と市教委の判断を疑問視する。

 要請の撤回は28日、臨時の校長会で小中学校に伝えられ「ゲン」の取り扱いは各校の判断に委ねられる。日本図書館協会「図書館の自由委員会」の西河内靖泰委員長(59)は「『ゲン』の内容どうこうでなく、教育行政が図書への規制をかけたことが最大の問題だ」と強調。「この問題を、行政が図書館の自由を見つめ直す契機としなければならない」と指摘する。(樋口浩二)

(2013年8月28日朝刊掲載)

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