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連載・特集

緊急連載 「ゲン」閲覧制限 <下> 従った学校

「知る権利」希薄な意識

 松江市教委が漫画「はだしのゲン」の閲覧制限を小中学校に求めていた問題は、市教委が28日の校長会で要請を撤回し、「ゲン」の扱いを学校に委ねたことで一応の決着をみた。一方、子どもの「知る権利」の侵害にもつながりかねない要請に従ったことについて、学校側の意識の薄さも浮き彫りになった。

 市教委の昨年12月と、ことし1月の要請を受け、「ゲン」を所蔵する小中学校43校のうち42校が閲覧制限を受け入れた。

 この日の校長会後の会見では、市小学校長会長の河原史佳・雑賀小校長も「許可があれば読める状態なので、子どもの『知る権利』に関わるとまでは考えなかった」と述べた。

非正規の司書

 要請への反対を貫く学校が少なかった背景について、日本図書館協会学校図書館部会の高橋恵美子部会長(63)は「学校司書が非正規雇用で立場が弱く、現場で十分に発言できていない面もあるのではないか」とみる。

 市教委は図書館がある小中学校全49校に学校司書を配置しているが、22人が嘱託職員、27人はさらに勤務時間の少ないパート職員という。高橋部会長は「全校配置は評価できるが、司書の位置付けが弱いのは否めない」とする。

 市教委の要請に従った学校の対応については、外部からも批判の声が上がる。インターネットで要請撤回を求める署名を募り、市教委に提出した堺市の学童保育指導員樋口徹さん(55)は「現場の教員たちが何も言わなかったのが不思議だ。『知る権利』にも関わる問題で、現場でもっと議論を深めてほしい」と注文する。

議論深まらず

 図書の制限をめぐる議論も深まったとはいえない。清水伸夫教育長はこの日の校長会で「発達段階に応じた配慮は必要という考えは変わらない」とあらためて強調した。

 「教育的配慮」は、図書を制限するに足る理由か―。島根県立大短期大学部の石井大輔講師(33)=図書館情報学=は「その問いには答えはないかもしれないし、常に正しい判断ができると考えるのはおごりだ。だからこそ、現場や利用者を巻き込んだ幅広い議論が必要だ」と話す。

 高橋部会長は、1954年に採択された「図書館の自由に関する宣言」について「戦前や戦中に図書館が思想統制に加担した反省から生まれた。小学校では特に『教育的配慮』に流れやすいが、『知る権利』などを守るという図書館の原点を忘れないでほしい」と訴えている。(明知隼二)

(2013年8月29日朝刊掲載)

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