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なぜなに探偵団 原発の安全審査とは

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 中国電力が年内に、島根原子力発電所(松江(まつえ)市鹿島(かしま)町)を動かすのに必要な安全審査(しんさ)を申請(しんせい)する見通しであることが分かりました。定期的な検査(けんさ)に入ったまま止まっている1、2号機、完成間近の3号機のうち、2号機の審査を最初に申し込みそうです。

津波対策や事故対応 より厳しく

 東日本大震災で福島県にある福島第1原発が事故(じこ)を起こしたため、日本の原発50基(き)は全て止まっています。再(ふたた)び動かすには、原子力規制(きせい)委員会という国の機関による審査を受けないといけません。中電はこの安全審査を年内に申し込(こ)む予定で、書類の準備(じゅんび)などを進めています。

 審査の基準は委員会が7月にまとめました。これまでの決まりは「事故を防(ふせ)ぐ」ことに力点を置き、事故が起きた場合の対策(たいさく)が不十分でした。また、ルールを厳(きび)しくしても建設済(す)みの原発はすぐに対応(たいおう)しなくても良い仕組みでした。新基準(きじゅん)はこの2点を改め、より厳しい津波(つなみ)対策や事故対応を全ての原発に求めました。

 まず津波対策は、原発がある場所を襲った過去最大の規模(きぼ)を超える津波をも防(ふせ)ぐ壁(かべ)が必要になりました。このため中電は、既(すで)にあった防波壁(ぼうはへき)をかさ上げしたり、新しく造(つく)ったりして海岸沿(ぞ)いを囲いました。建物の中も、厚(あつ)さ約20センチの鋼鉄(こうてつ)の扉(とびら)を増(ふ)やしました。万が一、津波が壁を越(こ)えても内部に水が入るのを防ぐ工夫です。

 福島の事故では原子炉(ろ)がある建物が爆発(ばくはつ)し、人体に悪い影響(えいきょう)を与(あた)える放射性物質(ほうしゃせいぶっしつ)が大量に飛び散りました。津波で停電し、内部が蒸気(じょうき)でいっぱいになったのが原因(げんいん)です。この反省から、放射性物質を99・9%取り除(のぞ)いて蒸気を外に出す設備(せつび)も必要にしました。島根原発では工事中で、来年度に完成します。

 中電は申請書類の準備をほぼ終えました。原発が立っている地元の自治体に説明した上で、審査を申し込みます。委員会は書類の内容(ないよう)を調べ、さらに原発を直接(ちょくせつ)検査して安全に動かせるかどうかを判断(はんだん)します。審査は半年間に及ぶ見込みです。

 他の電力会社の状況(じょうきょう)はどうでしょう。7月以降(いこう)、四国電力や関西電力など5社が合わせて14基の審査を申し込みました。委員会は安全対策の内容を確認(かくにん)していますが、合格(ごうかく)した原発はまだありません。

 審査を終えても、原発を動かすには地元自治体の同意が必要です。島根原発の場合、島根県や松江市に「OK」を出してもらわないといけません。出雲市や雲南市など近くの自治体も事故の際(さい)は影響が出るかもしれないので、意見を出したいと考えています。

 原発は大量の電気を安くつくります。しかし、福島の事故で「怖(こわ)い」と考える人が増えました。電力会社が再び動かそうとするなら、住民の不安を取り除く丁寧(ていねい)な説明が求められます。(山瀬隆弘(やませ・たかひろ))

≪そもそもキーワード≫

島根原子力発電所
 1974年に運転を始めた1号機、89年に動き始めた2号機、建設中の3号機がある。13カ月に1度の検査が必要で、1号機は2010年11月に、2号機は12年1月に検査入りしたまま止まっている

(2013年10月20日朝刊掲載)

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