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連載・特集

スコープ 早期再稼働へ優先度に差 島根原発2基

2号機 試運転不要 年内見通し

3号機 未完成 地元でも慎重論

 中国電力が、島根原子力発電所(松江市)の2、3号機で再稼働に向けた安全審査の申請準備を進めている。審査後に早く運転できる既設の2号機を優先し、年内にも申請する見通し。建設中の3号機は運転すれば福島第1原発の事故後で新たに稼働する初の原発となるだけに地元の慎重論も根強く、申請時期は見通せない。(山瀬隆弘)

 「2、3号機で申請書の作成を鋭意進めている」。中電の苅田知英社長は10月末の記者会見で強調した。2基の同時申請には「マンパワーで苦慮している」と述べ、困難な見通しを表明。申請の順番は「決めていない」と話すにとどめた。

「経営的」で順位

 ある幹部は優先順位を「経営的には2号機」と明かす。出力82万キロワットは3号機の137万3千キロワットより小さいが、新規稼働で求められる約9カ月間の試運転は不要。審査後地元同意を得れば1~2カ月でフル稼働できるとみる。

 3号機は2006年10月に着工し、ほぼ完成している。原発から2キロの古浦自治会の亀城幸平会長(63)は「事故のリスクが低いのは最新鋭の3号機」と話すなど、地元の一部には早期稼働を期待する声もある。

 だが、3号機の稼働にはより課題が多い。「震災後初の新規稼働になる。国がどう考えるかはっきりさせないと判断に迷う」。松江市の松浦正敬市長は6日の記者会見で、3号機についてこう言及。福島第1原発の事故後、初めて新規原発を稼働させることに対し、国が考え方を示すよう求めた。

宙に浮く「新設」

 安倍政権は当面の原発活用を唱えるものの、年内にまとめるエネルギー基本計画には将来の原子力比率を盛り込まない見通し。原発の新設が許されるかどうか、扱いは宙に浮いている格好だ。

 原子力規制委にはこれまでに5電力会社が計14基の安全審査を申請したが、未完成の原子炉の申請は一基もない。中電が申請前に地元自治体へ求める事前了解への対応も、松浦市長は「2号機とは違う手順になる」と発言。ある島根県議は「完成していない3号機も一緒に申請すれば、住民の反発は必至。2号機の再稼働も進まなくなる」と指摘する。

 中電は近く、2号機の申請について、島根県と松江市へ事前了解を求める見通し。中電内部でも、安全審査が2、3号機で同時に進むと対応する人員が足りなくなるとの懸念もある。

 2、3号機を問わず、原発稼働に懸念を抱く住民は多い。中国地方反原発反火力等住民運動市民運動連絡会議の木原省治事務局長(64)は「福島事故の全容解明もできていない中での再稼働の動きは、30キロ圏内の地元住民の理解を得られない」と主張する。

<島根原発の概要>

               出力(万キロワット)    現状           安全審査への対応
1号機 1974年   3月稼働  46        定期検査で停止中  未定
2号機   89年   2月稼働  82        定期検査で停止中  申請書準備中
3号機 2006年  10月着工 137.3      建設中         申請書準備中

◆記者の目◆

脱原発論の中 丁寧な説明を

 中電は申請準備を「2、3号機同時に」進めているとする。原発ゼロでも2回の夏を越せたのに、なぜ2基の稼働が必要なのか。積極的な情報発信は乏しい。福島の事故を受け、多くの人が原発との向き合い方を変えた。脱原発の考えも広がる中なおも2基の稼働を目指すには、従来以上に丁寧な説明が不可欠なはずだ。

(2013年11月8日朝刊掲載)

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