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連載・特集

特定秘密保護法案を問う <下> 広島大大学院社会科学研究科(日本政治史)・森辺成一教授

国際指針に沿い公開を

国会・司法の監視必要

 ―政府は特定秘密保護法で何を狙ったのでしょうか。
 集団的自衛権を容認し、日米が共同で軍事行動できる体制に向けた条件整備を図ったといえる。4日発足した国家安全保障会議(日本版NSC)もその一環。米国から得た外交・防衛関連の情報をNSCから国会や報道機関に漏らさないために新しい法律が要る、という発想だ。軍事行動の選択肢を持つことは保守の宿願だ。1999年の周辺事態法、2003年の武力攻撃事態法と、段階的に整えてきた有事法制の仕上げといえる。

 ―「秘密」の範囲が漠然としていて、公務員が萎縮しませんか。
 「何が特定秘密かも秘密」だと、報道機関の取材に対して公務員は「その件は特定秘密なので話せない」とも言えない。結局、「何も話さないのが得策」となる。当然、国民の知る権利は損なわれる。外交・防衛と関係のない多くの省庁に秘密指定の権限を与えているのも問題だ。

 ―秘密の範囲が際限なく広がる懸念は。
 軍事的な緊張が高まったときに秘密が増えるのはやむを得ないとしても、問題は、緊張が収まったときに秘密を減らす手だてが明確でないことだ。秘密の指定・解除に関する第三者機関をつくり、国会や司法にその一翼を担わせる必要がある。

 ―戦前と重なるとの指摘があります。
 戦前の法制度でも、規制の範囲が徐々に民間に広がった。1899年の軍機保護法は軍人を罰するものだったが、1939年の軍用資源秘密保護法では軍需工場などで働く民間人も対象となり、41年の国防保安法では、言論が封殺された。

 今回も、国際的な緊張が高まると、特定秘密保護法の規制の範囲がぐぐっと広がり、例えば科学技術やIT、自動車関連などの情報が対象になることもあり得る。

 ―市民生活にも影響が出かねませんね。
 37年に軍機保護法が改正されて以降の3年間で377人が検挙され、うち有罪は14人だったとの研究報告がある。つまり、有罪になるのは一部でも、その過程で多くの人が捜査対象になった。威嚇効果は十分で、ものが言えない社会になる。

 ―国家機密の保持と情報公開のバランスをどう取るべきでしょうか。
 ことし6月にまとまった秘密保護の国際的な指針「ツワネ原則」に立ち返るべきだ。国家機密の必要性を認めつつも情報公開を重視し、独立した監視機関の設置や、秘密に期限を設けることなどを盛り込んでいる。

 今回は、秘密の期限を当初案の「30年」から「60年を超えない」と改悪した上に例外まで設けた。永久に秘密なのと等しい。公開を原則としたルールを作り、秘密は例外として限定すべきだ。(馬場洋太)

もりべ・せいいち
 大阪市生まれ。名古屋大大学院法学研究科博士課程単位取得退学。広島大法学部助教授、教授を経て04年から現職。戦前・戦後の法律の変遷などが研究テーマ。55歳。

(2013年12月6日朝刊掲載)

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