国際シンポ「広島・長崎の記憶―世界と共に考える次世代継承の道」 不戦・非核 道筋は
13年12月16日
国際シンポジウム「広島・長崎の記憶―世界と共に考える次世代継承の道」が7日、広島市中区の広島国際会議場で開かれた。ルワンダ、カンボジア、ポーランドの各博物館で虐殺についての継承活動に取り組んでいるパネリスト3人を交え、原爆を含む惨劇の記憶を次世代に伝えていく方策として、教育プログラムを実践し、経験者の記録を残す重要性を話し合った。原爆資料館長や今春ジュネーブ(スイス)を訪れたナガサキ・ユース代表団の長崎大生、中国新聞ジュニアライター、広島市立大広島平和研究所の副所長らによる被爆地からの実践報告もあった。広島市立大、長崎大核兵器廃絶研究センター、中国新聞社の主催。約430人が参加した。(文中敬称略)
◆基調講演(代読)
早川敦子氏(53)
津田塾大教授
◆海外パネリスト
イヴ・カムロンジ氏(32)
キガリ・ジェノサイド記念センター(ルワンダ)副センター長
中谷剛氏(47)
国立アウシュヴィッツ博物館(ポーランド)公認ガイド
ソピアロム・チェイ氏(32)
トゥール・スレン・ジェノサイド博物館(カンボジア)副館長
◆報告者
志賀賢治氏(61)
原爆資料館長
中村桂子氏(41)
長崎大核兵器廃絶研究センター准教授
下田杏奈さん(21)
ナガサキ・ユース代表団メンバー
水本和実氏(56)
広島市立大広島平和研究所副所長
田城明(66)
中国新聞社ヒロシマ平和メディアセンター長
松尾敢太郎さん(15)
ジュニアライター
木村友美さん(17)
ジュニアライター
◆司会
ロバート・ジェイコブズ氏(53)
広島平和研究所准教授
永井均氏(48)
広島平和研究所准教授
司会 教育の重要性が多く指摘されました。工夫していることや課題は何ですか。
カムロンジ 同じ教室で虐殺の被害者、加害者両方の子どもが一緒に学んでいる。両者が協力関係を築いていくことが大切だ。親世代の行為に責任を感じるのではなく、親世代が関わったいきさつや、なぜ虐殺が起きたのか、プロパガンダなども含め、背景を理解しなければならない。国を再建するためにも必要だ。
チェイ 学生が対象の教育プログラムを実施している。学生が、親や祖父母から虐殺の経験を聞き取る取り組みだ。家族の中で対話し、記録する。
虐殺の体験者や加害者もいつかは亡くなる。人々が真実を知りたいと思った時に対応できるよう、学生がまとめた家族の証言を博物館で保存していきたい。
若い世代は、自国で起きた虐殺について十分に理解していない、という声もある。50年後、100年後に虐殺を行ったポル・ポト派の思想を盛り返そうという人がいないようにしないといけない。
水本 広島市立大で平和の授業を担当している。小中高を広島で過ごし、原爆や平和について学んできた学生でも知らないような情報を提供しないといけない。隠れたエピソードを出し続け、関心を持ってもらおうと常に試みている。
中谷 ホロコーストの体験者でない自分がガイドする際、大切にしているのは生還者の経験談だ。15年前に案内し始めたころは生還者も案内していて、彼らの身ぶり手ぶりをまねた。今も、自分の言葉では話さない。経験者の名前を具体的に挙げ、この人はこういうふうに話していた、と。代弁者の役割に徹している。
司会 悲惨な出来事を早く教えてトラウマになることもある。何歳から、どんな教育をしていますか。
カムロンジ 幼い子どもに伝える時には気を付けないといけない。子どもが「虐殺って何?」と聞いてきた時、どう定義するか。親戚の遺体が見つかることもあり、どうなったのか説明もしないといけなくなる。まだ答えが見いだせていない。絵や物語で背景などを伝えたい。
中谷 うちの博物館は、14歳以上の見学が望ましいとのスタンスを取っている。考える力がある程度安定してから、というのが理由だ。13歳以下の日本人の子どもを案内する場合、両親に博物館の方針を伝える。事前に準備してきたら、きちんと理解する子どもが多いのも事実だ。
司会 他国で起きた虐殺について教えることの意味や重要性をどう考えますか。
チェイ 原爆投下も他の虐殺も、起きた背景を知り、何が起きたのかを考えることが大切だ。それぞれ背景は違うかもしれないが、苦しみという共通点がある。協力して共に学び、それを次世代に伝える。二度と起こしてはいけないという意識を持つべきだ。
カムロンジ どうすれば虐殺や戦争を防げるのか、他国で起きたことから学ぶのは重要だ。いまだに世界で戦争が続いているのは、これまでの教訓が生かされていない証拠だ。だからこそ、知識を深める必要がある。
中谷 どこの国でも、どの時代でも起こり得ることとして、アウシュヴィッツを見ることが必要だ。
水本 いろんな地域の悲惨な出来事を学び、なぜ起きたか分析することが大事だ。何がきっかけで平和が壊れ、共存していた人たちが対立し、暴力や殺し合いに発展していくのか学ばないといけない。そうすれば、広島に核兵器という究極の暴力が使われた事実だけではなく、考えを深めることができる。
司会 虐殺の背景にある偏見や差別について教えていますか。
水本 日本は島国で、大陸と比べ異文化と直接触れ合う機会は少ない。だからイスラム教やヒンズー教といった、日本人の生活からかけ離れた地域の文化を意識的に教えている。異なる文化を持つ人に対して、何かよく分からないと排他的になりがちだ。暴力にもつながりやすい。タイプは違うけれど、同じ人間だと理解させるようにしている。
中谷 人種差別について、欧州の人と日本人との意識の差は大きい。欧州では公の場で人種差別的な発言はない。日本では「このくらいはいいだろう」という感覚があるようだ。メディアも気付いたら批判の声を上げるべきだ。日本は人種差別に寛容すぎる。
司会 広島や長崎の人たち、特に若者へのメッセージを聞かせてください。
カムロンジ 国の将来を支えるルワンダの若い世代に、ヒロシマについて伝えたい。広島の若者も、ルワンダ虐殺や和解に向けた取り組みについて、周りの人に知らせてほしい。ルワンダと広島など日本の若者が互いに共感し、知り合うことが必要だろう。
中谷 この会場に若い人の姿が目立っているのがうれしい。若者は柔軟性、感受性に優れ、どんな困難にも立ち向かっていける勇気を持っている。社会はそんな若者を必要としている。社会のために頑張ってほしい。
チェイ 広島を訪問し、原爆について詳細に知ることができた。シンポジウムで皆さんと話し合いができ、特に広島の若い人たちには感激した。このメッセージをカンボジアの若者にも伝えたい。家族の中での平和や、クラスメートとの平和、皆さんの隣人との平和づくりに貢献したい。経験した惨禍を忘れてはいけない。
水本 若い世代が記憶を継承する時、知識として百パーセント受け継がなければいけないと考えがちだ。しかし、そうではない。次の世代には、知識の継承だけではなく、悲劇の非人道性を十分検証した上で、どうしたら繰り返さないで済むのか、という知恵も提供するのが大事だ。
キガリ・ジェノサイド記念センターのイヴ・カムロンジ副センター長は、虐殺を生き延びたが、父母や兄を亡くした。加害者が刑期を終えて地域に戻っている現状に触れ、「民族間の和解と、虐殺が再び起きないよう記憶を継承することが大切だ」と訴えた。
2004年にできた同センターでの取り組みを紹介。被害者の記録の保存、遺品や遺骨展示などの役割以外に、教育プログラムを実施しているという。
このプログラムには、12歳から20歳までの学生、歴史や公民の教員、地域の指導者が参加。被害者、加害者の両方の家族がおり、「平和構築のために若者が担う役割」などについてグループで討議し、民族の垣根を越えた信頼関係の構築につなげている。
来年は虐殺から20年。「よりよい未来を築くため、過去から学ぶことが重要だ」と指摘した。
国立アウシュヴィッツ博物館で日本人唯一の公認ガイドの中谷剛さんは、欧州連合(EU)がホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を多民族の共生・共存のための教訓と位置付けて、継承を進めている動きや成果、課題を説明した。
ポーランドを含む28カ国が加盟するEUでは、教育関係者が定期的に集まって継承のための作業部会を開催。その結果、博物館の訪問者が年間150万人近くになり、10年で3倍に。特に14~25歳の来館者が全体の72%を占めるようになった。
ただ、博物館では生還者の高齢化で、証言できる人が年々減少。300人を超す博物館ガイドに戦争体験者はいないという。
戦後68年を過ぎた今、「欧州で起きた悲劇そのものだけではなく、起きた時代の背景と原因、現代に及ぼす影響について考えるべきだ」と強調した。
トゥール・スレン・ジェノサイド博物館のソピアロム・チェイ副館長は、ポル・ポト政権下で起きた大虐殺について、若い世代に知ってもらうための取り組みを紹介した。
各地域の高校を巡る「移動博物館」のほか、公立、私立の高校生たちに博物館を訪れてもらい、ガイドが案内。虐殺の歴史について学んでもらっている。将来的には、毎週土曜に30人の若者を博物館に招き、生存者の話を聞いてもらう活動を始めたい、という。
博物館ではまた、次世代に理解してもらう目的で、ポル・ポト政権で被害を受けた人たちからの情報を保管。2009年には、博物館の公文書が世界記憶遺産になったことにも触れた。
最後に、「大虐殺の生存者が高齢化で次々に亡くなっている」と話し、継承していくことの大切さを訴えた。
早川敦子氏
私は翻訳者として、過去の人の思いや願い、苦しみを国境を超えて伝える役割を負っている。
ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)第2世代の作家エヴァ・ホフマンは、第2世代は直接体験したのとは異なるトラウマがあるという。親の苦しみを見ながら、それをどう受け止めてよいのか分からないまま子ども時代を過ごし、同時に次世代に語らねばならない使命を感じ、時に負いきれない重圧に苦しむ。
実は、後の時代に生きる者は、過去の出来事を「知恵」に変える役割を担っている。広島・長崎の原爆で亡くなった人たちの無念は、次の世代が思いを向け、人間の「知」の中に取り込むことで意味が生まれてくる。
3年ほど前、英国オックスフォード大に吉永小百合さんを招いて朗読会を開いた。峠三吉、栗原貞子さんの詩を聞いた英国の学生が「原爆という、人類で最も非人道的な行為に対して、表現者たちはもっとも人間的な方法で応答していた」と言った。原爆詩に託された「人間」の思いが国境を超えた。
「表現」は人間に与えられた誰にも奪えない力である。世界の戦後第2世代、第3世代の作家には、ヒロシマを同じ人間の負の遺産として捉える意識があり、世界文学の一つの水脈となっている。(急病のため代読)
基調講演の全文はこちらから閲覧できます。
志賀賢治氏
原爆資料館の志賀賢治館長は、資料館に寄贈された「あの日」を伝える犠牲者の遺品が若い世代に訴える力を持っていると強調した。
8月6日に赤ちゃんを取り上げた助産師が持っていた聴診器やはかりの写真を紹介。その遺品を見た大学生が「確かにあの時、私と同じ人間が生きていたのが分かった。原爆を過去のことだと思っていて、恥ずかしい」と感じるようになったエピソードを報告した。
テレビ会議システムを使った海外への被爆証言や、高校生が体験を聞いて描く「原爆の絵」など、他の取り組みについても語った。
ナガサキ・ユース代表団
長崎大核兵器廃絶研究センターの中村桂子准教授は、大学生に核兵器をめぐる世界の現状を学んでもらおうと長崎市や長崎県などと取り組んだナガサキ・ユース代表団について紹介した。4~5月にジュネーブであった核拡散防止条約(NPT)再検討会議の第2回準備委員会に1期生8人を送り出した。
現地では小中生に原爆の平和授業をした。8月には、核兵器廃絶についての討論会も実施。「継続が大切。2015年にはヒロシマ・ナガサキ・ユース代表団を実現したい」と夢を語った。
1期生で長崎大4年の下田杏奈さん=写真=は「さまざまな専門の学生が知恵を集めれば、被爆体験継承の可能性は広がる」と強調した。
水本和実氏
広島平和研究所の水本和実副所長は、原爆被害を次の世代に伝えるには、他国の悲惨な経験にも目を向けるべきだと提起。国境を超えてつらい記憶を共有し、共に継承する必要があると強調した。
虐殺や内戦を経験したカンボジアでの教員育成や歯科検診といった広島からの支援も紹介。その過程で、被爆という「同じようなつらい体験をした」広島に興味を持つ現地の人が増えたという。
各国の悲劇を繰り返さないため、他の国に関心を持つ機会が必要だと指摘。「悲惨な経験を共有することが、次世代継承の課題だ」と力を込めた。
ジュニアライター
被爆者取材や平和活動を展開している中国新聞のジュニアライターについて、田城明ヒロシマ平和メディアセンター長が概要を説明した。続いて2人のジュニアライターが、活動を通して学んだ点や課題を発表。中学3年の松尾敢太郎さん=写真左=は、被爆者が核兵器反対を強調するのを聞き、「平和や核兵器について考えるようになった」。一方、無関心な若者にいかに関心を持ってもらうかが課題とした。
高2の木村友美さん=同右=は、被爆者の苦しみの深さを理解できない自分に悩んだエピソードを紹介。「活動を通して、原爆という事実に真摯(しんし)に向き合い、強く伝えたい意志を持つことが重要だと思えるようになった」と振り返り、「世界中にジュニアライターが増えれば、子どもの視点で平和について考えることが浸透する」と提案した。
この特集は、文・二井理江、増田咲子、永里真弓、折口慎一郎、写真・井上貴博が担当しました。
(2013年12月16日朝刊掲載)
◆基調講演(代読)
早川敦子氏(53)
津田塾大教授
◆海外パネリスト
イヴ・カムロンジ氏(32)
キガリ・ジェノサイド記念センター(ルワンダ)副センター長
中谷剛氏(47)
国立アウシュヴィッツ博物館(ポーランド)公認ガイド
ソピアロム・チェイ氏(32)
トゥール・スレン・ジェノサイド博物館(カンボジア)副館長
◆報告者
志賀賢治氏(61)
原爆資料館長
中村桂子氏(41)
長崎大核兵器廃絶研究センター准教授
下田杏奈さん(21)
ナガサキ・ユース代表団メンバー
水本和実氏(56)
広島市立大広島平和研究所副所長
田城明(66)
中国新聞社ヒロシマ平和メディアセンター長
松尾敢太郎さん(15)
ジュニアライター
木村友美さん(17)
ジュニアライター
◆司会
ロバート・ジェイコブズ氏(53)
広島平和研究所准教授
永井均氏(48)
広島平和研究所准教授
≪パネルディスカッション≫
教育プログラム
経緯や背景 理解不可欠 カムロンジ氏
生還者の言葉でガイド 中谷氏
司会 教育の重要性が多く指摘されました。工夫していることや課題は何ですか。
カムロンジ 同じ教室で虐殺の被害者、加害者両方の子どもが一緒に学んでいる。両者が協力関係を築いていくことが大切だ。親世代の行為に責任を感じるのではなく、親世代が関わったいきさつや、なぜ虐殺が起きたのか、プロパガンダなども含め、背景を理解しなければならない。国を再建するためにも必要だ。
チェイ 学生が対象の教育プログラムを実施している。学生が、親や祖父母から虐殺の経験を聞き取る取り組みだ。家族の中で対話し、記録する。
虐殺の体験者や加害者もいつかは亡くなる。人々が真実を知りたいと思った時に対応できるよう、学生がまとめた家族の証言を博物館で保存していきたい。
若い世代は、自国で起きた虐殺について十分に理解していない、という声もある。50年後、100年後に虐殺を行ったポル・ポト派の思想を盛り返そうという人がいないようにしないといけない。
水本 広島市立大で平和の授業を担当している。小中高を広島で過ごし、原爆や平和について学んできた学生でも知らないような情報を提供しないといけない。隠れたエピソードを出し続け、関心を持ってもらおうと常に試みている。
中谷 ホロコーストの体験者でない自分がガイドする際、大切にしているのは生還者の経験談だ。15年前に案内し始めたころは生還者も案内していて、彼らの身ぶり手ぶりをまねた。今も、自分の言葉では話さない。経験者の名前を具体的に挙げ、この人はこういうふうに話していた、と。代弁者の役割に徹している。
司会 悲惨な出来事を早く教えてトラウマになることもある。何歳から、どんな教育をしていますか。
カムロンジ 幼い子どもに伝える時には気を付けないといけない。子どもが「虐殺って何?」と聞いてきた時、どう定義するか。親戚の遺体が見つかることもあり、どうなったのか説明もしないといけなくなる。まだ答えが見いだせていない。絵や物語で背景などを伝えたい。
中谷 うちの博物館は、14歳以上の見学が望ましいとのスタンスを取っている。考える力がある程度安定してから、というのが理由だ。13歳以下の日本人の子どもを案内する場合、両親に博物館の方針を伝える。事前に準備してきたら、きちんと理解する子どもが多いのも事実だ。
他国に学ぶ
原因分析で考え深まる 水本氏
司会 他国で起きた虐殺について教えることの意味や重要性をどう考えますか。
チェイ 原爆投下も他の虐殺も、起きた背景を知り、何が起きたのかを考えることが大切だ。それぞれ背景は違うかもしれないが、苦しみという共通点がある。協力して共に学び、それを次世代に伝える。二度と起こしてはいけないという意識を持つべきだ。
カムロンジ どうすれば虐殺や戦争を防げるのか、他国で起きたことから学ぶのは重要だ。いまだに世界で戦争が続いているのは、これまでの教訓が生かされていない証拠だ。だからこそ、知識を深める必要がある。
中谷 どこの国でも、どの時代でも起こり得ることとして、アウシュヴィッツを見ることが必要だ。
水本 いろんな地域の悲惨な出来事を学び、なぜ起きたか分析することが大事だ。何がきっかけで平和が壊れ、共存していた人たちが対立し、暴力や殺し合いに発展していくのか学ばないといけない。そうすれば、広島に核兵器という究極の暴力が使われた事実だけではなく、考えを深めることができる。
司会 虐殺の背景にある偏見や差別について教えていますか。
水本 日本は島国で、大陸と比べ異文化と直接触れ合う機会は少ない。だからイスラム教やヒンズー教といった、日本人の生活からかけ離れた地域の文化を意識的に教えている。異なる文化を持つ人に対して、何かよく分からないと排他的になりがちだ。暴力にもつながりやすい。タイプは違うけれど、同じ人間だと理解させるようにしている。
中谷 人種差別について、欧州の人と日本人との意識の差は大きい。欧州では公の場で人種差別的な発言はない。日本では「このくらいはいいだろう」という感覚があるようだ。メディアも気付いたら批判の声を上げるべきだ。日本は人種差別に寛容すぎる。
若い人へ
惨禍 忘れてはいけない チェイ氏
司会 広島や長崎の人たち、特に若者へのメッセージを聞かせてください。
カムロンジ 国の将来を支えるルワンダの若い世代に、ヒロシマについて伝えたい。広島の若者も、ルワンダ虐殺や和解に向けた取り組みについて、周りの人に知らせてほしい。ルワンダと広島など日本の若者が互いに共感し、知り合うことが必要だろう。
中谷 この会場に若い人の姿が目立っているのがうれしい。若者は柔軟性、感受性に優れ、どんな困難にも立ち向かっていける勇気を持っている。社会はそんな若者を必要としている。社会のために頑張ってほしい。
チェイ 広島を訪問し、原爆について詳細に知ることができた。シンポジウムで皆さんと話し合いができ、特に広島の若い人たちには感激した。このメッセージをカンボジアの若者にも伝えたい。家族の中での平和や、クラスメートとの平和、皆さんの隣人との平和づくりに貢献したい。経験した惨禍を忘れてはいけない。
水本 若い世代が記憶を継承する時、知識として百パーセント受け継がなければいけないと考えがちだ。しかし、そうではない。次の世代には、知識の継承だけではなく、悲劇の非人道性を十分検証した上で、どうしたら繰り返さないで済むのか、という知恵も提供するのが大事だ。
≪海外の取り組み≫
討議通じ信頼構築 カムロンジ氏
キガリ・ジェノサイド記念センターのイヴ・カムロンジ副センター長は、虐殺を生き延びたが、父母や兄を亡くした。加害者が刑期を終えて地域に戻っている現状に触れ、「民族間の和解と、虐殺が再び起きないよう記憶を継承することが大切だ」と訴えた。
2004年にできた同センターでの取り組みを紹介。被害者の記録の保存、遺品や遺骨展示などの役割以外に、教育プログラムを実施しているという。
このプログラムには、12歳から20歳までの学生、歴史や公民の教員、地域の指導者が参加。被害者、加害者の両方の家族がおり、「平和構築のために若者が担う役割」などについてグループで討議し、民族の垣根を越えた信頼関係の構築につなげている。
来年は虐殺から20年。「よりよい未来を築くため、過去から学ぶことが重要だ」と指摘した。
EU内に作業部会 中谷氏
国立アウシュヴィッツ博物館で日本人唯一の公認ガイドの中谷剛さんは、欧州連合(EU)がホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を多民族の共生・共存のための教訓と位置付けて、継承を進めている動きや成果、課題を説明した。
ポーランドを含む28カ国が加盟するEUでは、教育関係者が定期的に集まって継承のための作業部会を開催。その結果、博物館の訪問者が年間150万人近くになり、10年で3倍に。特に14~25歳の来館者が全体の72%を占めるようになった。
ただ、博物館では生還者の高齢化で、証言できる人が年々減少。300人を超す博物館ガイドに戦争体験者はいないという。
戦後68年を過ぎた今、「欧州で起きた悲劇そのものだけではなく、起きた時代の背景と原因、現代に及ぼす影響について考えるべきだ」と強調した。
高校巡り歴史教育 チェイ氏
トゥール・スレン・ジェノサイド博物館のソピアロム・チェイ副館長は、ポル・ポト政権下で起きた大虐殺について、若い世代に知ってもらうための取り組みを紹介した。
各地域の高校を巡る「移動博物館」のほか、公立、私立の高校生たちに博物館を訪れてもらい、ガイドが案内。虐殺の歴史について学んでもらっている。将来的には、毎週土曜に30人の若者を博物館に招き、生存者の話を聞いてもらう活動を始めたい、という。
博物館ではまた、次世代に理解してもらう目的で、ポル・ポト政権で被害を受けた人たちからの情報を保管。2009年には、博物館の公文書が世界記憶遺産になったことにも触れた。
最後に、「大虐殺の生存者が高齢化で次々に亡くなっている」と話し、継承していくことの大切さを訴えた。
≪基調講演(要旨)≫
早川敦子氏
過去を知恵に変えよう
私は翻訳者として、過去の人の思いや願い、苦しみを国境を超えて伝える役割を負っている。
ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)第2世代の作家エヴァ・ホフマンは、第2世代は直接体験したのとは異なるトラウマがあるという。親の苦しみを見ながら、それをどう受け止めてよいのか分からないまま子ども時代を過ごし、同時に次世代に語らねばならない使命を感じ、時に負いきれない重圧に苦しむ。
実は、後の時代に生きる者は、過去の出来事を「知恵」に変える役割を担っている。広島・長崎の原爆で亡くなった人たちの無念は、次の世代が思いを向け、人間の「知」の中に取り込むことで意味が生まれてくる。
3年ほど前、英国オックスフォード大に吉永小百合さんを招いて朗読会を開いた。峠三吉、栗原貞子さんの詩を聞いた英国の学生が「原爆という、人類で最も非人道的な行為に対して、表現者たちはもっとも人間的な方法で応答していた」と言った。原爆詩に託された「人間」の思いが国境を超えた。
「表現」は人間に与えられた誰にも奪えない力である。世界の戦後第2世代、第3世代の作家には、ヒロシマを同じ人間の負の遺産として捉える意識があり、世界文学の一つの水脈となっている。(急病のため代読)
基調講演の全文はこちらから閲覧できます。
≪被爆地から報告≫
8・6遺品の訴求力を強調
志賀賢治氏
原爆資料館の志賀賢治館長は、資料館に寄贈された「あの日」を伝える犠牲者の遺品が若い世代に訴える力を持っていると強調した。
8月6日に赤ちゃんを取り上げた助産師が持っていた聴診器やはかりの写真を紹介。その遺品を見た大学生が「確かにあの時、私と同じ人間が生きていたのが分かった。原爆を過去のことだと思っていて、恥ずかしい」と感じるようになったエピソードを報告した。
テレビ会議システムを使った海外への被爆証言や、高校生が体験を聞いて描く「原爆の絵」など、他の取り組みについても語った。
NPT委に大学生派遣
ナガサキ・ユース代表団
長崎大核兵器廃絶研究センターの中村桂子准教授は、大学生に核兵器をめぐる世界の現状を学んでもらおうと長崎市や長崎県などと取り組んだナガサキ・ユース代表団について紹介した。4~5月にジュネーブであった核拡散防止条約(NPT)再検討会議の第2回準備委員会に1期生8人を送り出した。
現地では小中生に原爆の平和授業をした。8月には、核兵器廃絶についての討論会も実施。「継続が大切。2015年にはヒロシマ・ナガサキ・ユース代表団を実現したい」と夢を語った。
1期生で長崎大4年の下田杏奈さん=写真=は「さまざまな専門の学生が知恵を集めれば、被爆体験継承の可能性は広がる」と強調した。
国境を超えた記憶共有訴え
水本和実氏
広島平和研究所の水本和実副所長は、原爆被害を次の世代に伝えるには、他国の悲惨な経験にも目を向けるべきだと提起。国境を超えてつらい記憶を共有し、共に継承する必要があると強調した。
虐殺や内戦を経験したカンボジアでの教員育成や歯科検診といった広島からの支援も紹介。その過程で、被爆という「同じようなつらい体験をした」広島に興味を持つ現地の人が増えたという。
各国の悲劇を繰り返さないため、他の国に関心を持つ機会が必要だと指摘。「悲惨な経験を共有することが、次世代継承の課題だ」と力を込めた。
無関心な若者 意識改革課題
ジュニアライター
被爆者取材や平和活動を展開している中国新聞のジュニアライターについて、田城明ヒロシマ平和メディアセンター長が概要を説明した。続いて2人のジュニアライターが、活動を通して学んだ点や課題を発表。中学3年の松尾敢太郎さん=写真左=は、被爆者が核兵器反対を強調するのを聞き、「平和や核兵器について考えるようになった」。一方、無関心な若者にいかに関心を持ってもらうかが課題とした。
高2の木村友美さん=同右=は、被爆者の苦しみの深さを理解できない自分に悩んだエピソードを紹介。「活動を通して、原爆という事実に真摯(しんし)に向き合い、強く伝えたい意志を持つことが重要だと思えるようになった」と振り返り、「世界中にジュニアライターが増えれば、子どもの視点で平和について考えることが浸透する」と提案した。
この特集は、文・二井理江、増田咲子、永里真弓、折口慎一郎、写真・井上貴博が担当しました。
(2013年12月16日朝刊掲載)