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連載・特集

安全審査申請 島根2号機 <上> 民意なき地元容認

駆け足で住民説明会

 中国電力が25日、島根原子力発電所2号機(松江市鹿島町)の安全審査を原子力規制委員会に申請した。今後、本格化する再稼働手続き。稼働の是非を問われる地元の課題と、早期稼働をにらむ中電の思惑を探った。

 「大きな意見の違いはなかった」。島根県の溝口善兵衛知事は24日、安全審査の申請を認めると中電側に伝えた後、記者団に胸を張った。中電が県と松江市に申請の了解を求めた11月21日以降、原発30キロ圏の鳥取県、出雲、雲南、安来、米子、境港市も含む2県6市に容認への異論がなかったと強調した。

 県が申請を容認する案を示したのは、規制委が原発の新規制基準を施行した7月。中電による11月の要請から1カ月、その方針と同様の考えが2県6市から続々と表明された。

 「出来レース」(島根県議)との批判も出た申請容認の潮目が変わったかにみえた瞬間があった。12月7日、県が開いた安全対策協議会だ。雲南市が申請内容の住民説明会の開催を中電に働き掛けるよう県に求めたのだ。「根回しなしの進行」(県幹部)という協議会。県と中電に説明会の想定はなかった。

中電側に配慮

 直後、出雲、安来を含めた3市が県と協議し、各市が主催する形での説明会を決定。中電とも急きょ日程を調整した。だが「年内申請」の中電の意に沿うように、18日までの11日間で次々と開催。「住民の声を聞くパフォーマンスだ」=雲南市の田中繁行さん(62)=と冷ややかな声も上がった。事故の危険や使用済み核燃料の処分方法への懸念から申請反対を求めた出席者の声は、3市の意見に反映されなかった。

 安全審査と再稼働は別―。住民の根強い不安に配慮し、3市が主張した論理だ。3市は申請容認を県に回答した20日にも、中電へ伝えるよう要求。溝口知事が24日、苅田知英社長に伝えた。再稼働を判断する際、不可欠となるはずの安全性をあえて「別の議論」と強調することで、中電が描く早期稼働の方針を追認したとの批判をかわす思惑が透けて見えた。

実質的な了承

 ただ、安全性を最終的に判断するという規制委の審査後の局面で、規制委の判断を覆す決定が地元にできるのか。「このままでは審査の了承が実質的な再稼働の了解になる」。島根原発増設反対運動代表の芦原康江松江市議(60)は懸念する。一方、自民党県議は「原発問題は国策。国が安全で必要といえば動かすしかない」と安全性の議論に深入りせぬようくぎを刺す。

 「福島第1原発事故でリスクが判明した以上、安全性の議論が重要なのは言うまでもない」。県原子力安全顧問で明治大法学部の勝田忠広准教授(45)=原子力政策=は指摘する。「住民の命を預かる県には、電力需給や経済への影響も真剣に検討した上で、丁寧に民意をくみ取る責任がある」(樋口浩二)

島根原発の稼働への発言権
 島根県と松江市は中国電力と結ぶ安全協定に基づき施設の重要な変更に対する事前了解権を持つ。厳密には稼働への了解権ではないが、福島第1原発事故以降、稼働には県市の同意が不可欠との方針で3者は一致している。県市を除く30キロ圏の1県5市には稼働を左右する発言権はなく中電に島根県、松江市並みの協定締結を再三求めている。10、11月には、稼働判断の際に意見を聞いてもらう趣旨の覚書を島根県と結んだ。

(2013年12月26日朝刊掲載)

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