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APEC JAPAN 2010 高級事務レベル会合で開幕

■記者 吉原圭介

 今年、日本で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)は、広島市で22、23の両日ある高級事務レベル会合で実質的な議論がスタートする。引き続き3月7日まで関連の会合も市内であり、21カ国・地域の政府から次官級や局長級をはじめ約千人が集う。国内開催は1995年に続き2回目。2010年をめどに各種のプロジェクトが域内で進められてきた意味で節目の年の開催となる。被爆地から始まる議論の焦点や意義を紹介する。

■今年の概要

 今年のAPECのテーマは「チェンジ・アンド・アクション」(変化と行動)。今後のAPECの方向性を構想し、行動に移す年との思いがこもる。

 具体的には、先進国・地域は2010年まで(途上国・地域は20年まで)に、自由で開かれた貿易・投資を目指すとした「ボゴール目標」の達成度を評価する年となる。

 さらに、(1)「地域経済統合」の推進(2)「新たな成長戦略」の策定(3)テロ対策や食糧安全保障、感染症対策など「人間の安全保障」の強化―について意見を交わす。

 日本は今年の議長国であり、広島市での高級事務レベル会合が最初の公式議論の場となる。11月に横浜である閣僚会議・首脳会議に向け、国内各地であと3回の高級事務レベル会合のほか、貿易担当相会合や財務相会合などが開かれる。

 首脳会議は鳩山由紀夫首相が議長を務め、米国のオバマ大統領やロシアのメドベージェフ大統領も参加する見込みだ。

■広島会合

 第1回高級事務レベル会合は22、23の両日、広島市南区のグランドプリンスホテル広島である。日本外務省の中村滋国際貿易・経済担当大使、経済産業省の西山英彦審議官(通商政策局担当)の2人が議長を務める。

 この会合を受け、23日から3月7日まで、中区の広島国際会議場と合わせ2会場で、財政管理や貿易・投資などの委員会や作業部会などがある。

 外務省APEC室は「米国と中国、日本という三大経済大国がそろう会議はAPEC域外にも大きなインパクトを与える。その重要な会議の第一歩だ」と意義を語る。

■受け入れ準備

 今回の会合を受け入れるため、広島県や市、経済界、国際交流団体は昨年11月、支援推進協議会を発足させた。

 会合の期間中、328人のボランティアが駅などで交通案内するほか、携帯電話を使った通訳サービスなどで参加者をもてなす。

 また、中区の原爆資料館をはじめ、宮島(廿日市市)や西条酒蔵(東広島市)へ向かう計3コースの見学ツアーを連日実施。かき殻を使う浄水装置、化粧筆づくりなど県内約20のものづくり企業見学会も準備している。

 広島市の田村直也APEC担当課長は「2週間の長期にわたる国際会議。平和に対する取り組み、原爆ドームと宮島の二つの世界遺産を持つ観光の魅力、そして技術の蓄積を知ってもらう好機にしたい」と意気込む。


経産省の服部崇企画官に聞く
広島会合の意義は 核兵器の悲惨さ 世界が学ぶ

 2005年末から3年間、シンガポールにあるAPEC事務局に勤務した経済産業省の服部崇企画官(通商金融・金融システム担当)に、広島会合の意義などを聞いた。

 -APECの協議テーマが経済以外にも広がってきた理由は。
 APECの発足は、戦後のアジアで不信感を抱かれていた日本が経済協力分野で力を発揮し、地域での存在感を増したいと考えたのがきっかけ。入り口は経済だった。しかし2001年9月11日の米中枢同時テロ以降、その性格は「深化」している。

 この年の11月に開かれたAPEC首脳会議は、事件後初めて各国が集まる国際会議でもあり、反テロの声明を出した。その後も健康問題や気候変動、災害対応などさまざまな分野が議論の対象になっている。今やアジア太平洋地域で最も重要な地域フォーラムだ。

 -これまでの成果は何ですか。
 反テロの声明にしても、地域全体が何かに向けて取り組むとの姿勢を世界にアピールしてきたことに、大きな意味がある。

 APECでは、地域全体の取り決めをすることもあるし、特定の国のシステム改善を図ることもある。経済分野では、例えば関税を引き下げて貿易を自由化したり、物流や関税の手続きを簡略・円滑化したりしてきた。規制改革に関するチェックリストも作り、各国が参考にしている。

 -広島で今年の公式協議が始まる意義をどう考えますか。
 今年は、今後のAPECのあり方が決まる節目の年。史上最も重要で、最も多くの議論をする。高級事務レベル会合では、各国の次官や局長クラスが議論のたたき台をつくる。つまり今年の大枠が広島で方向づけられることになる。

 私自身のAPECとのかかわりは2006年のベトナム会合が最初。現地の人が積極的に声を掛けてくれ、温かい交流ができた。非常に思い出深い。広島とアジア太平洋がつながる会合となる。21カ国・地域の要職にある人たちが広島の人々とふれあい、核兵器がもたらす悲惨さを学ぶことに大きな意義があるし、そうなるよう期待している。

はっとり・たかし 
 1967年三重県生まれ。1991年通産省(現経産省)に入省。2005年12月から3年間、APEC事務局にプログラム・ディレクターとして勤務。その体験を著書「APECの素顔」(幻冬舎ルネッサンス刊)にまとめた。2009年7月から現職。

(2010年2月19日朝刊掲載)

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