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検証 島根県予算2014 原子力防災 避難時のソフト面課題

 島根県が6日発表した総額5272億3400万円の2014年度一般会計当初予算案。任期2期目の最終年度に向けた編成で溝口善兵衛知事は、防災対策や産業振興を重視する姿勢を示した。使途は県民ニーズに沿ったものといえるのか。狙いと課題を検証する。

 中国電力島根原子力発電所(松江市鹿島町)の南東約7キロにある法吉保育所(同市春日町)。2階の倉庫には、段ボールに入った粉ミルクと飲料水、保存食が山積みされている。原発事故が起きた場合、保護者の迎えを待つ約180人の乳幼児が1日間待機できる分量の備蓄で、昨年3月に県から届いた。

食料の備蓄進む

 2月中にはおむつ、新年度も新しい粉ミルクやおかゆが届く予定だ。「保護者に引き渡すまでの備えは心強い」と杠(ゆずりは)桂子所長(60)は歓迎する。一方、保護者がすぐに来られない場合、県が避難先に指定する約100キロ西の浜田市への避難は「無理だと思う」。自前の車両はなく「園内で保護者の迎えを待つしかない」との不安が残る。

 福島第1原発事故を受け、県が力を注ぐのが計約3万人に上る乳幼児や社会福祉施設の入所者たち災害弱者の安全確保だ。乳幼児向けの食料と衣料の備蓄には12~14年度当初予算ベースで独自財源計2070万円を充てた。

 社会福祉施設にも13、14年度、計32億円を投じて放射性物質から施設を守る改修費を全額賄うなど、屋内にとどまるためのハード整備は前進する。だが次のステージとなる避難には、搬送手段の調達に向けた他機関との連携などソフト面の課題が山積している。

バスは2200台不足

 昨年11月には、原発30キロ圏の約39万6千人がバスで避難する際、必要な約4800台に2200台不足するとの試算を公表した県。台数を増やすのは困難とみて、調達方法の議論を地元交通事業者と進めている。

 だが他県への誘導が必至となる原発避難は「国の調整が不可欠」(防災部の大国羊一部長)。防災担当者が参加する内閣府の検討組織は福島の事故から2年半後の昨年9月に発足したばかりで、具体的な成果は出ていない。

 交通手段の課題は同11月の原子力防災訓練でも浮き彫りになった。施設入所者の避難に使う予定だったヘリコプターは強風で防府市から出発できず、同1月の訓練に続いて中止。天候に左右される弱点を露呈した。

 一方、島根2号機の再稼働手続きは進み、県は新年度にも稼働の是非を問われる。溝口知事は6日、判断材料として住民の避難計画を考慮するのは「当然」と述べた。だが、再稼働の必要性に理解を示す県議会自民党内には「避難など無理だ」との声がある。

 松江高専(松江市)の浅田純作教授(災害社会工学)は「避難の前提となる事故情報の伝達一つとっても課題は多い」と強調。「住民を集めた地域ごとの学習会で課題をつぶさに吸い上げるなど、多額な予算を使うハード事業以外にも効果的な施策は多いはず」と指摘している。(樋口浩二)

(2014年2月8日朝刊掲載)

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