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被爆者援護 来日不要へ 「黒い雨」地域健診証も 厚労省方針

■記者 増田咲子

 原爆投下後に降った「黒い雨」地域の住民らが申請できる健康診断受診者証について、厚生労働省が新年度中に在外公館で受け付ける方針を決めたことが8日、分かった。原爆症認定の在外申請も新年度の早い時期から受け付ける方針を示しており、被爆者援護に絡む来日要件がすべて撤廃されることになる。

 来日要件をめぐっては、2008年12月に被爆者健康手帳の在外申請ができるようになった。受診者証についても厚労省は外務省との協議で、在外公館の受け入れ態勢が整うと判断。近く被爆者援護法の施行規則を改正して、在外申請できるようにする。

 受診者証の取得者は「みなし被爆者」の位置付けで、健康診断を無料で受けることができる。また国の定める11種類の疾病にかかった場合、一定限度の医療費助成が受けられる被爆者健康手帳に切り替えることができるため、この手続きに必要な医師の診断なども海外でできるよう同時に準備を進めている。

 厚労省によると、受診者証の所持者数は09年3月末現在で全国に約730人、広島県内に約320人いる。海外の人数は把握できていないという。

 韓国原爆被害者協会の許萬貞(ホウマンジョン)副会長(77)は今月4日、韓国人4人と広島市役所を訪れ、受診者証の受け取りに付き添ったばかり。来日要件の撤廃を「高齢者や体の不自由な人にとって、申請が楽になる」と喜んでいる。


要件撤廃に思い複雑


■記者 増田咲子

 厚生労働省が完全撤廃する方針を決めた海外在住者の「来日要件」。「被爆者はどこにいても被爆者」と政府に制度改正を求めてきた在外被爆者や支援団体からは喜びの声の一方で、被爆者の高齢化を受け「もう10年早ければ」と複雑な思いも入り交じった。

 龍谷大法科大学院教授で、在ブラジル・在アメリカ被爆者裁判を支援する会の田村和之代表世話人(67)は「国内被爆者と同じ筋道が開かれた」と一定に評価する。しかし同時に「黒い雨」地域住民への健康診断受診者証の在外交付の運用に向け「現地の被爆者団体への周知徹底のほか、被爆者健康手帳への切り替えに必要な医療・健診体制の充実が欠かせない」とくぎを刺す。

 韓国の原爆被害者を救援する市民の会の豊永恵三郎広島支部長(73)は複雑な表情だ。

 「これまでの運動の成果と言えるが、もっと早く結論を出してほしかった。高齢で病気になった人も多いし、逆に幼くて記憶がない人もいる」と残念がる。

 韓国原爆被害者協会の許萬貞副会長も歓迎の一方で、課題を口にする。例えば受診者証取得の場合、「黒い雨」地域にいた韓国人の人数など実態の把握は難しいという。そこが分からなければ周知はたやすくない。

 高齢化する在外被爆者は日本へのアプローチもままならないことが多い。手続き面が改正される今だからこそ、海外からでも自らの被爆当時の状況を把握しやすくする支援策が求められている。

在外被爆者の来日要件
 旧被爆者援護法が被爆者健康手帳の申請先を「居住地や現在地の都道府県知事」と規定するなど、在外被爆者の諸手続きは申請者本人の来日を義務付けてきた。しかし2007年11月、韓国人元徴用工訴訟で最高裁が、在外被爆者を手当支給の対象外とした旧厚生省通達(402号通達)を「違法」とし、国に賠償を命じる判決が確定。これを機に08年12月には、国外からの手帳申請を認める改正被爆者援護法が施行されるなど一気に要件が緩和する流れとなった。

(2010年3月9日朝刊掲載)

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