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日米密約認定 廃絶の願い「裏切られた」

■記者 増田咲子

 日米密約に関する有識者委員会の報告内容が明らかになった9日、被爆者は「政府に裏切られた」と憤った。一方、米海兵隊岩国基地を抱え、1970~80年代に核持ち込み疑惑が相次ぎ表面化した岩国市では、関係者があらためて史実の解明を求めた。

 広島

 広島県被団協の坪井直理事長(84)は「国民をだましていた政府に怒りを覚える。国民が心を一つにして非核三原則の法制化をさらに要求したい」と強調。もう一つの県被団協の金子一士理事長(84)も「密約は破棄し、核兵器廃絶の先頭に立つのが被爆国の進む道だ」と訴える。原爆資料館のピースボランティア岡田恵美子さん(73)も「政府は核廃絶を本気で考えていなかった。裏切られた気持ちだ」と悔しがった。

 一方、故宮沢喜一元首相が、核持ち込みの密約を認識していたことが明らかになった点について、おいで秘書も務めた自民党元衆院議員の宮沢洋一氏(59)は「その時の理想と現実のはざまで、悩んだ末に出した結論だと思う。もし生きていれば、いろんなことを話したかったのではないか」と話した。

 岩国

 岩国市の福田良彦市長(39)は岩国基地への核持ち込み疑惑について「外務省に事実確認をしているが、回答はない。米側の情報を含めきちんとした説明を求める」と述べた。

 岩国にはこれまでも、60年代前後に核搭載の揚陸艦(LST)が停泊していたと米元高官らが証言するなど核疑惑がつきまとってきた。基地監視団体「リムピース」運営委員の田村順玄市議(64)は「包み隠さず公表を」と求める。山口県平和委員会の久米慶典筆頭代表理事(54)は「二度と核が持ち込まれないよう世論形成の努力が必要だ」と強調している。


「極めて遺憾」 湯崎知事・秋葉市長


■記者 増田咲子

 日米密約についての有識者委員会の報告を受け、広島県の湯崎英彦知事と、広島市の秋葉忠利市長は9日、コメントを発表した。

 湯崎知事は「仮に非核三原則に反することがあったとすれば極めて遺憾。人類最初の原子爆弾の惨禍を経験した県民にとって核兵器廃絶は切なる願い。非核三原則の順守と核兵器廃絶に向けた積極的な取り組みを」と国に求めた。

 秋葉市長は核持ち込みについて「広義の密約が存在したことは極めて遺憾」とし、国に対し非核三原則の法制化を求めたうえで「核の傘に頼らない安全保障体制が構築できるよう国家間の信頼関係の醸成に向け、積極的な外交を展開するよう要請する」とした。


日米密約認定 識者談話


日米密約に関する外務省の有識者委員会が9日、公表した調査報告書。核兵器や安全保障問題の専門家は評価の一方で、「内容は不十分。幕引きにされないか」という批判・警戒を強調した。

個別具体の検証を
軍事評論家の前田哲男氏(71)

 密約という2重政策が、岩国などでどう実行されたのか、という個別具体の検証に入るべきだ。報告書の公表をもって幕引きとしてはならない。むしろスタートラインに立ったと考えるべきで、国会で特別委員会をつくってでも検証する価値がある。

 核が持ち込まれた経緯を明らかにした上で、決別するのが本当の検証であり、国民への説明責任だ。

被爆地を欺く姿勢
国際問題研究者の新原昭治氏(78)

 60年の安保改定時に米軍核搭載艦船の立ち寄りを容認した「密約」について、報告書は「暗黙の了解」という表現にとどめた。

 調査自体は評価できるが、米側の解禁文書はほかにも存在するのに、都合が悪いものは無視している。内容は歯切れが悪く、あいまいにしたいという結果ありきだ。外務省への遠慮が先に立ち、被爆地を欺く姿勢は変わっていない。

受動的外交の表れ
広島市立大広島平和研究所の水本和実准教授=国際政治

 密約は受動的な対米外交を推し進めてきた表れ。過去の検証は大事だが、核兵器の問題では日本が米国の「核の傘」に頼っている現実は変わっていないことに留意するべきだ。

 また、米軍基地の運用など外交上の密約や暗黙の了解はまだ存在するかもしれない。現政権が対等な日米関係を目指すという以上、市民も、マスメディアも、ウオッチを怠ってはならない。

ずさんな管理残念
西南女学院大(北九州市)の菅英輝教授=国際政治

 冷戦時代の国際環境を踏まえて「密約はやむを得なかった」では済まされない。冷戦が終結し、米国も核兵器の戦略的な役割を低減させていく方向だ。日本も「核の傘」依存の安全保障政策を見直し、世界の核軍縮に発言力を高めるときだ。

 検証結果に残念な部分もある。文書管理がずさんで沖縄への有事の核再持ち込みについて認定できなかったことだ。文書管理や情報公開の在り方を再検討する必要がある。

(2010年3月10日朝刊掲載)

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