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在外公館で原爆症申請 4月から 施行令改正を閣議決定

■記者 増田咲子

 政府は12日、在外被爆者がそれぞれ居住する国の日本大使館などで4月1日から、原爆症認定の申請ができるよう被爆者援護法の施行令改正を閣議決定した。厚生労働省はこれに合わせて、海外に住む「黒い雨」地域の住民らが健康診断受診者証を在外申請できるよう決めており、来日要件が完全撤廃されることになる。

 在外被爆者をめぐってはこれまで被爆者援護法で被爆者健康手帳の申請先を「居住地や現在地の都道府県知事」と規定するなど申請者本人の来日を義務付けていた。また1974年の旧厚生省公衆衛生局長名の402号通達で、日本を出国したら手当を受け取れないとしていた。

 これに対し在外被爆者は国を相手取って提訴。2008年12月には被爆者援護法が改正され、付則で原爆症認定の在外申請について「必要な措置を講じる」としていた。

 原爆症認定については、在外公館に医師の診断結果などを提出し、被爆者健康手帳を取得した都道府県などを通じて厚労省に申請。厚労省は審査会で認定の可否を判断し、認められれば、医療特別手当として月約13万7千円が支給される。健康診断受診者証は政令で定めていないため閣議決定の対象外だが、厚労省は同時に受け付け開始する。厚労省によると、被爆者健康手帳を持つ人は韓国、米国、ブラジルを中心に37カ国に約4370人いる。


<解説>援護格差解消なお課題


■記者 岡田浩平

 海外に住む被爆者(在外被爆者)を苦しめてきた「来日要件」全廃が12日ようやく正式に決まった。手続き上の壁が取り払われるものの、あくまで第一歩。国内外の援護格差解消には、在外被爆者の側に立った運用面の充実が欠かせない。

 一つは情報提供と手続きの支援だ。必要な書類を得るにはどうするのかなど周知の困難は予想できる。原爆被害の実態に疎い海外の医師にどう理解してもらうかなども課題となるだろう。

 また原爆症認定の審査を待つ人は国内だけでも約7300人いる。待ちわびた海外からの申請に速やかに応えるためには認定審査全体の加速も急務だ。

 一方、置き去りにされている問題もある。日本に住む被爆者の医療費は無料だが、在外被爆者への医療費助成には上限がある。年約16万1千~17万2千円(新年度予定額)。原爆症に認定されても上限は変わらない。

 厚生労働省は「医療や保険の仕組みが日本とは違う」として海外の医療費については被爆者援護法の枠外の措置と位置付けている。しかし援護法に司法の言う「国家補償的性格」があるなら、在外被爆者への全面適用も真剣に議論すべきときではないだろうか。

(2010年3月13日朝刊掲載)

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