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新核軍縮条約 米露が合意 被爆者ら 「NPT会議に追い風」

■記者 金崎由美、林淳一郎、増田咲子、明知準二

 米ロ首脳が第1次戦略兵器削減条約(START1)に代わる新条約で最終合意したことについて、広島の被爆者らは27日、米ニューヨークで5月に開かれる核拡散防止条約(NPT)再検討会議への「追い風」になると前向きに評価した。米国の市民らも世界的な核軍縮の進展への期待と注文を口にした。

 「再検討会議の機運を高める」。訪米を準備する広島県被団協の坪井直理事長(84)は「ニューヨークで『条約は被爆者と世界に支持されている』と訴えたい」と力を込める。

 もう一つの県被団協の金子一士理事長(84)は「廃絶が示されたわけではない」と指摘。それでも「再検討会議が勢いづき、他の保有国にも影響を与える」と希望をつなぐ。

 被爆証言を続ける阿部静子さん(83)=広島県海田町=は「これまで嵐の闇夜に向かって廃絶を叫んでいるようだった。やっと、うねりが起きた」と話す。

 ただ米ロ合意が達成されても、両国は上限各1550発の戦略核弾頭を持ち合う。核兵器廃絶をめざすヒロシマの会の森滝春子共同代表(71)は「ただ減らすのではなく、ゼロに向かう一歩ということを忘れてはならない」と注文する。

 米ロが合意した26日、米首都ワシントン周辺を広島の高校生3人が訪ねていた。彼らが出会ったメリーランド州の歴史教師ケン・ジョーンズさん(38)は「合意は素晴らしいが、他の保有国に放棄を促すのは容易ではない」。ワシントンを訪れていたパキスタンの会計士カイサ・サリムさん(48)は「核兵器を持つインドとパキスタンも交渉のテーブルに着き、危険な状態から抜けだす必要がある」と話した。


広島市立大広島平和研究所 水本和実准教授に聞く


■記者 金崎由美

 米ロ首脳が合意した第1次戦略兵器削減条約(START1)に代わる新条約の意義と今後の課題について、広島市立大広島平和研究所の水本和実准教授(53)に聞いた。

 米ロとも「核軍縮に後ろ向き」と思われたくなかったこと、さらに核拡散防止条約(NPT)を重視している表れだ。5月にあるNPT再検討会議にとってプラス材料になる。4月にプラハで調印するのも、「核なき世界」実現に向けたオバマ米大統領の信念は変わらないと発信する機会になる。

 しかし、ロシアの運搬手段(弾道ミサイルなど)は現在、ストックホルム国際平和研究所のデータによると計620。「800」との今回の合意は、ロシアにとって削減とはならず、評価できない。

 一方、戦略核弾頭数の配備上限を「1550」とする合意は、交渉経緯からすると想定内。だが、これも多すぎる。

 日本とオーストラリアが主導した核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)が昨年発表した報告書は、米ロの核弾頭を2025年までに500発ずつ(非戦略核も含む)に削減するよう提言している。

 しかし新条約が失効する10年後まで1550を維持すればいいとなれば、この目標は達成できない。米ロ以外の保有国を軍縮交渉に巻き込むのも難しい。

 米ロは1550にとらわれず、さらなる核削減を早急に実行すべきだ。被爆国であり、ICNNDをサポートしてきた日本政府も、そのことを強く迫っていくべきだ。

(2010年3月28日朝刊掲載)

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