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新軍縮条約調印 米軍縮専門家「日本含む世論の成果」

■記者 金崎由美

 オバマ米大統領は核戦略の長期指針「核体制の見直し(NPR)」発表に続き、8日にはロシアと新たな核軍縮条約に調印した。核軍縮への具体的な一歩として、米国の核軍縮専門家の間には「日本を含む国際世論が役割を果たした」と評価する声がある。同時に「東西冷戦時の思考が一掃されていない」との批判もある。

 核兵器の唯一の目的を核攻撃の抑止に限定することについて、NPRは「時期尚早」などとして明記しなかった。科学者団体「憂慮する科学者同盟」のスティーブン・ヤング氏は「残念だ」としながらも、核拡散防止条約(NPT)を順守する非保有国には核攻撃しないとするなど「ドアは開かれた。日米の世論が強いメッセージを発した成果でもある」と指摘する。

 ヤング氏によると、米政府筋から「日本は核の役割限定に前向きだが、東欧と韓国が難色を示した」と打ち明けられたという。巡航核ミサイル・トマホークの退役もNPRに明記され、ヤング氏は「日本の世論と(核の役割減少に強い関心を示した)岡田克也外相の意思表示が大きかった」と評価する。

 一方、NPRは新たな核弾頭の開発は否定しつつも、ウラン濃縮施設の増強など核兵器施設の大胆な近代化を打ち出した。それはオバマ政権が議会に対し、前年度比13.5%増の約112億ドル(1兆円)にも上る2011会計年度の核兵器関連予算を要求していることとも見合う。

 「米ロの新条約や包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准するには上院の3分の2の賛成が必要。軍縮反対派を説得するために難しいバランスを取った」と分析するのはモントレー国際関係研究所のスティーブン・シュワーツ氏だ。

 また米国は現在約900発、ロシアはそれ以上の戦略核が、数分から十数分以内に発射できる態勢にあるとされる。誤操作の懸念も指摘されるこうした警戒態勢の緩和についてNPRは「長期課題」とした。米ロの新条約にも具体的な取り決めは見当たらない。

 この点について、クリントン政権時代に核政策立案に関与したプリンストン大のフランク・フォン・ヒッペル教授は「冷戦期の非常に危険な体制も温存した」と指摘している。

(2010年4月9日朝刊掲載)

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