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NPTウオッチ2010 涙の絶えない原爆展

■記者 岡田浩平(ニューヨーク発)

 涙を見ない日はない。米ニューヨークの国連本部ビル1階、日本被団協の原爆展会場で、いつも誰かが泣いている。

 米国人の母子は被爆者女性2人の証言に、何度も涙をぬぐっていた。日本人女性の通訳にも涙声が交じる。惨状を克明に記録した写真、そして被爆者の訴えに、心を揺さぶられないはずはない。

 心温まるエピソードも聞いた。被団協事務局次長の木戸季市さん(70)がタクシーに乗ったときのこと。被爆者として核兵器廃絶を訴えるため米国に来たのだと明かすと、パキスタン人の男性運転手は「平和のために自分も協力したい」。20ドルの料金を頑として受け取らなかったという。

 そんな取材の合間にNPT再検討会議を傍聴する。各国の政府代表スピーチは外交上の思惑に満ちているためか、計算ずくで、しかも無味乾燥に感じる。広島と長崎の記憶、核兵器廃絶への願いにどう応えるのか、気概は伝わってこない。

 28日までの会期中、原爆展は続き、木戸さんは居残る。各国の政府代表は何度でも、その証言に耳を傾けてほしい。核兵器の威力ではなく、悲惨さをかみしめてもらいたい。

(2010年5月8日朝刊掲載)

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