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NPT会議 「私を最後の被爆者に」 長崎の谷口さんが証言

■記者 金崎由美、岡田浩平(ニューヨーク)

 「私からどうか目をそらさないでほしい」。長崎市の被爆者谷口稜曄(すみてる)さん(81)が声を振り絞ると、議場は静まりかえった。7日、核拡散防止条約(NPT)再検討会議。「被爆者が生きている間に核兵器廃絶を」と広島市の秋葉忠利市長らも切々と訴えた。

 非政府組織(NGO)代表の連続スピーチに集まったのは、各国政府代表や国連職員ら約300人。谷口さんは原爆で背中全体を真っ赤に焼かれた被爆直後の自身の写真を掲げた。「私はモルモットではない。見せ物でもない。でも目をそらさず、もう一度見てほしい」

 爆心地から約1.8キロで被爆。うつぶせのまま3年7カ月も続いた入院生活。傷口をうじ虫がかじり、耐え難い痛みに「殺してくれ」と叫んだ―。

 そんな証言に、涙をためながら聞き入る女性がいた。「私を最後の被爆者とするため、廃絶の声を世界に届けたい」。13分間のスピーチが終わると出席者は次々に立ち上がり、万雷の拍手は1分近く鳴り響いた。

 谷口さんの証言を受け継ぎ、秋葉市長は「力を合わせれば廃絶できる」と強くアピール。連続スピーチを締めくくった田上富久長崎市長は「核兵器の恐ろしさを保有国は本当に理解しているのか」と厳しく問いかけた。

 こうした被爆地からの訴えに、オーストリア国連代表部のクリストフ・ウィーラント参事官は「心を揺さぶられた。恐ろしい兵器は廃絶しなければならないとの思いに立ち返った」。再検討会議のカバクトゥラン議長は「被爆者の訴えは非常に強いメッセージだ。政府代表たちが決定を下す際、谷口さんの言葉が届いていることを願う」と述べた。

(2010年5月9日朝刊掲載)

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