×

ニュース

原爆症認定基準の最終案 被爆者の懸念消えず

■記者 森田裕美

 原爆症認定基準見直しを進めていた厚生労働省が25日、最終案を示した。被爆者の間には、認定の間口が広がった案を「一定の前進」と評価するものの、条件外の場合にどう個別、総合的に審査するのか不透明な点に批判の声がある。広島の集団訴訟原告や支援者は、地裁判決で指摘された「個々の被爆者の実情に即した」解決が実現するのか、厳しい視線を注いでいる。

 「最後の詰めで悔しい思いをせずに済むよう、今後も働きかけを強めたい」。原爆症認定集団訴訟広島原告団の玉本晴英副団長(77)=広島市安佐南区=は力を込める。体調が思わしくない仲間に代わり、早期解決を求めて幾度も上京し、国との協議に加わってきた。

 国の新基準の最終案は、これまで認定審査のよりどころとしてきた「原因確率」を切り捨てには使わないとし、爆心地から約3.5キロ以内で直接被爆したり、原爆投下後100時間以内に爆心地付近に入ったりした被爆者が白血病やがんなど5つの病気を患った場合は積極的に認定する内容。

 被爆者団体などが評価していた与党プロジェクトチームの提言を国がほぼまるのみした形であり、認定対象の拡大の方向は間違いないことなどから「一件落着」と見る人も少なくない。

 だが、裁判で勝訴した被爆者の中にも、この「積極認定」の要件から外れる人がいる。最終案は、個別審査で総合的に判断するとしているものの、詳細な判断基準は示されていない。

 広島共立病院(安佐南区)の青木克明院長は、国の案を広島地裁で勝訴した原告41人に当てはめてみた。22人は認定要件を満たすが、19人は個別審査に回るという。

 また、心筋梗塞(こうそく)などは「放射線起因性が認められる」など条件を付けている点について「どんなケースを想定しているか分からない。循環器の専門医が果たしてどの程度、放射線起因性の根拠を判断できるだろうか」と疑問を投げかける。

 「プラス面ばかりが目立ち、個別判断の部分がどうなるのか全く見えない」。広島県被団協(金子一士理事長)被爆者相談所で健康障害を抱える被爆者に接している有村洋介さん(65)も懸念する。

 名古屋大の沢田昭二名誉教授(核物理学)は「一連の裁判で認められた内部被曝(ひばく)が考慮されていない」と指摘する。「被爆者の実態から説明できる科学について、国の新基準は無視している」と批判する。

 日本被団協などは3月初旬、厚労省との2回目の協議に臨む。坪井直代表委員(82)は「行政上のある程度の線引きはやむを得ないが、機械的に切り捨てるのではなく、放射線を浴びたことによる心理的影響など今後明らかになるであろう科学的知見にも柔軟に対応し、個々の被爆者の実情に基づいた判断を求めたい」と話している。

原因確率
 国が原爆症認定審査のよりどころとしてきた数値。被爆者の病気がどれくらいの確率で原爆放射線被曝(ひばく)に起因するかを、爆心地からの距離に基づく推定被曝線量と当時の年齢を基に、男女別に割り出し、疾病ごとに示す。50%以上なら放射線の影響の可能性が「ある」、10%未満なら「低い」とされる。放射線影響研究所(広島市南区)の被爆者調査を通じて蓄積したデータを基に算定。国側の敗訴が相次ぐ集団訴訟判決では機械的適用が批判された。

年別アーカイブ