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NPT会議最終文書採択 核の非人道性明記 「被爆国」アピール不足

■記者 金崎由美(ニューヨーク発)

 28日に閉幕した核拡散防止条約(NPT)再検討会議の最終文書は、核軍縮の「行動計画」の内容が修正を重ねるたびに弱まり、核兵器廃絶への道のりの険しさをあらためて浮き彫りにした。一方で、明るい要素もあった。注目すべきは「核兵器のいかなる使用も人道上、破滅的な結果をもたらすことを深く憂慮する」と、非人道性を明記したことだ。被爆地の訴えと重なる。

 行動計画のリストそのものではなく、前文の中。「すべての国が国際人道法を含む国際法に従う必要性」を確認した。ヒロシマ・ナガサキが核兵器の存在をその破壊力ではなく、人類に対する兵器として否定する主張と同じだ。

 国連の潘基文(バンキムン)事務総長の核廃絶提案として「核兵器禁止条約への交渉の検討」も盛り込んだ。これらは核兵器を持つ国には最も都合が悪い表現だが、核兵器禁止条約に前向きな姿勢を貫いたノルウェー、オーストリア、スイスなど一部の非核保有国の努力の成果といえる。

 今回の最終文書は、2000年の会議で達した核兵器廃絶への「明確な約束」から、わずかながら前進したとも取れる。核超大国である米国がオバマ政権に代わり、前回の05年会議から一転、成功を重視する姿勢を取ったことは明らかに追い風となっていた。

 残念だったのは日本が被爆国としての存在感を十分に示せなかったことだ。41の賛同国を集めて軍縮教育の必要性を訴える共同声明を発表したが、鳩山由紀夫首相や岡田克也外相は会議出席を見送った。一部の非保有国の努力が実を結ぶ中、「唯一の被爆国」の姿勢はどう映っただろうか。

 今後の課題は、文書をどう実行に移せるかだ。行動計画を前倒しして進めるぐらいでないと、核兵器廃絶の到達点はなお遠い。高齢化する被爆者は核のない世界を自らの目で確認することを切に願っている。核保有国は特に、この行動計画を目標ととらえるのではなく、最低限実行しなければならないリストなのだと肝に銘じるべきだ。

                             ◇

 今回のNPT再検討会議の評価を、共同通信ニューヨーク支局長を務めた広島修道大法学部の大島寛教授(62)=アメリカ研究=と、広島市立大広島平和研究所の水本和実教授(53)=国際政治=に聞いた。

広島修道大法学部の大島寛教授 世界の機運 維持できた

■記者 新田洋子

 大きな前進はなかったが、核兵器廃絶に向けた世界の機運は維持できた。米英の核弾頭数公表や、インドネシアの包括的核実験禁止条約(CTBT)批准方針表明など前向きな動きも出た。米国が会議に積極的にかかわろうとしたのも大きい。

 核兵器廃絶へのはっきりとした道筋が見えないなど最終文書の中身には残念さも感じるが、もともとこの会議は利害が対立する国々が意見を調整する場であり、画期的な意見が出るような性格ではない。現時点での論点を整理し、核廃絶に向けて動きだそうという国際社会の意思を確認する4週間だった。ただ日本は首相も外相も出席せず、被爆国としてのアピールは極めてお粗末だった。

 今後、文書がどう履行されるかに注視したい。中東の非核化を打ち出しても、イスラエルが乗ってこなければ前には進まない。2年後、米国でオバマ政権から保守色の濃い共和党政権に移れば、核政策も変わるだろう。冷静に検証していく必要がある。

広島市立大広島平和研究所の水本和実教授 廃絶期限 明記なく残念

■記者 増田咲子

 最終文書を採択でき、最低限の課題はクリアできた。前回の2005年会議はそれまでの蓄積をほごにしたが、今回で、元のレールに戻すことができたと言える。また最終文書に、具体的な記述ではないが「核兵器禁止条約」構想が明記されたのは小さな一歩ではあるが評価できる。

 イスラエルを念頭にした中東非核化へ向けた会議開催について、イランが足並みを乱す可能性もあったが、エジプトを中心にアラブ諸国がまとまって単独行動をブロックし、盛り込むことができたのは成功だった。

 一方、核兵器廃絶へ向けた具体的な目標年次が盛り込まれなかったのは残念。フランスは核軍縮に背を向ける勢力があり、ロシアも米ロの新核軍縮条約以上の削減を受け入れられないという立場。核保有5カ国とも一致して廃絶期限を設けようとはしなかった。今後の大きな課題だ。最終文書を不十分と非難するのではなく前向きにとらえ、国際社会全体で核兵器のない世界を目指すべきだ。


秋葉忠利広島市長の話 全加盟国合意大きい

■記者 林淳一郎

 核軍縮交渉開始の明確な年次などが盛り込まれなかったのは残念だが、核保有国を含むすべての加盟国が核兵器廃絶に向け具体的な行動を始めることに合意した意味は大きい。広島市や平和市長会議が廃絶を目指す2020年まで残された時間は少ない。求められるのは、廃絶に取り組む各国政府の政治的意思の形成に向け、機運をさらに醸成する努力を続けることだ。

湯崎英彦広島県知事の話 国際社会の強い意志

■記者 林淳一郎

 核軍縮に向けた国際社会の強い意志を示しており、大きな成果だ。核保有国とわが国がより一層のリーダーシップを発揮し、各国が合意文書に沿った積極的かつ具体的な行動を取るよう期待する。核軍縮への動きを加速させるためにも、各国首脳が広島を訪れ、廃絶への決意を深め、廃虚から復興した広島の姿から、復興と平和への確信を持ってほしい。

(2010年5月30日朝刊掲載)

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