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3.11とヒロシマ

『フクシマとヒロシマ』 第2部 浜通りの50人 <6> 個人情報

■記者 山本洋子、下久保聖司

調査 住民目線で還元を

 福島第1原発事故から2カ月余りたった5月末、福島県飯舘村の型枠整備会社経営佐藤健太さん(29)は千葉市の放射線医学総合研究所(放医研)を訪ねた。ホールボディーカウンター(全身測定装置)で内部被曝(ひばく)を検査するのが目的。事故後も仕事などで屋外にいる時間が長かったため、心配になって自ら検査を依頼した。

数値の伝達なし

 しかし伝えられた結果は「被曝量は基準以下」だけ。具体的な数値は教えてもらえない。理由を問うと「一般住民には理解できない」と返された。今も納得がいかない。

 自分の体が放射線でどんな影響を受けたのか。事実を知りたいという思いは広島、長崎の被爆者と重なる。

 原爆傷害調査委員会(ABCC、現放射線影響研究所)は1950年代から約12万人を対象に追跡を始めた。その疫学調査の結果は世界的な放射線防護の基準作りなどに活用された一方、被爆者の間には「実験台にされた」「検査はしたが、治療はしてくれなかった」との不信感も生まれた。

 福島県は8月から全県民202万人を対象にした健康管理調査を始める。広島と同じ轍(てつ)を踏まぬよう、住民の目線でいかに情報を還元するかがここでも課題となる。

 健康管理調査は質問票などにより被曝量を推定する。このうち放射線量が高かった浪江町、川俣町山木屋地区、飯舘村の計2万8千人については今月末までに先行調査をスタート。うち100人は内部被曝も調べる。

 放影研や広島大、長崎大などの蓄積に期待がかかる。「前例のない低線量、長時間被曝の影響を正確に評価できるのは、被爆地の蓄積があってこそ」。健康管理調査を手掛ける調査委員会メンバーの一人、広島大原爆放射線医科学研究所の神谷研二所長(放射線障害医学)はそれにこたえる。

対象「全村民に」

 「一刻も早く調査を始めてほしい」。飯舘村の県職員愛沢卓見さん(40)は、全村民約6200人への内部被曝調査を求める。「どれだけの放射性物質が体内に入ったか、みんな不安なんです」

 内部被曝調査の対象者100人を決める自治体の窓口には乳幼児の保護者から問い合わせが相次ぐ。不安を持つのは若い女性も同じ。「将来、元気な子どもを生みたいから」。浪江町の高校生菊地彩さん(17)はそんな思いで対象者入りを期待する。

 避難指示が出た飯舘村で佐藤さんは訴える。「残るにせよ離れるにせよ、僕は今現在の真実を知っておきたい」=第2部おわり

(2011年6月22日朝刊掲載)

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