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3.11とヒロシマ

『フクシマとヒロシマ』 第3部 被爆地の変化 <3> 使い分け

■記者 金崎由美、山本洋子

「核と原子力」距離感

 「日本がするのは『原子力開発』、イランは『核開発』と言われる。でも英語は同じニュークリア(nuclear)。日本政府は言葉を使い分けてきた」

 広島市中区で今月あった講演会。京都大原子炉実験所の小出裕章助教は力を込めた。「核も原子力も同じ。被爆地広島が『原子力の平和利用ならいい』と言うのなら、私は間違いだと思う」。約600席を埋めた観客から拍手が起きた。

核兵器と区別

 福島第1原発事故を受け、原発議論は海外でも進む。脱原発を法改正で決めたドイツ。「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」代表代行の田中利幸・広島市立大広島平和研究所教授は6月に訪れた。

 「ドイツは政府自ら脱原発を打ち出した。日本では政府に限らず市民の反核運動でさえ、核兵器と原発を切り離してきた」。日本が「原子力」を早い時期から肯定的に受け入れた歴史が大きく影響したことが背景にあると考える。

 田中教授たちは、世界のヒバクシャが結集する「核被害者世界大会」を広島で2015年に開催することを計画中。ウラン採掘にまでさかのぼり、すべての核被害者に目を向けることが、「原子力」と「核」の認識を近づける鍵になる―。そう期待する。

運動は転換点

 被爆から66年目の夏。核兵器廃絶運動をけん引してきた原水禁運動は転換点を迎えている。

 イデオロギーなどの違いから「原水爆禁止世界大会」という同名の大会を別々に開いている原水禁国民会議と、日本原水協。71年から「脱原発」を掲げてきた原水禁は今年初めて福島で大会を開く。

 日本原水協は例年通り広島と長崎で開催。「原子力依存から自然エネルギーへの転換」を掲げる。安井正和事務局長は「原発も原爆もいらない、との声が波のように届く」。時代の潮目を実感している。ただ両者に垣根を超えた連携はない。

 一方、「原子力」と「核」の間の距離感を埋めようとする模索も始まっている。

 8月6日。中国電力の上関原発(山口県上関町)建設計画に反対する人たちと、核兵器廃絶運動をしてきた人たちが初めて一緒に、「原発も、核兵器もない世界へ」と広島市内を訴え歩く。

 中心メンバーの岡田和樹さん(24)=三原市=は「反原発を訴えながら、身近な核被害者の話に耳を傾けてこなかったと気付いた」。そう取り組みの理由を説明。8・6を、既成の枠を越えて連携し、原発も核兵器もなくすためのスタートと位置付ける。あらためて「ノーモア・ヒバクシャ」を訴える。

(2011年7月16日朝刊掲載)

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