×

3.11とヒロシマ

『フクシマとヒロシマ』 第4部 ヒバクシャを診る <6> 保障

■記者 河野揚

「対象外」 健康不安募る

 あの日、福島第1原発から約9キロの実家にいた。「私は大丈夫なんでしょうか」―。岩国市麻里布町のフラワーアレンジメント講師鈴木千秋さん(49)。被災地から遠く離れた地で不安な日々を送る。

 福島県浪江町で父の四十九日の法事を終え、片づけをしていた時、東日本大震災が起きた。翌日から約2週間、県内の避難所を転々とした。

 県は8月から、約200万人の全県民に対する健康管理調査を本格スタートさせる。しかし鈴木さんは岩国市民。対象外だ。それだけに将来の健康管理をどうケアしてもらえるのかが見えない。仕事で県内入りしていたなど、鈴木さんのような人は少なくない。

所在証明が必要

 県健康増進課は「希望があれば検査や調査を受けられる。ただ事故当時に県内に所在したという証明が必要」。一緒にいた人の証言や、宿泊先の領収書などの提示を求める考えだ。一定の「線引き」を設ける必要があるとという。

 同じことは被爆地広島でも起きた。

 医療費支援などを受けることができる被爆者健康手帳。この取得には「原則として2人以上の証人が必要」(広島市原爆被害対策部)だ。

 家族や知人がすべて亡くなった人や、単独で爆心地付近に入った人たちはこの手帳取得に苦労を強いられた。原爆被爆の場合「子どもが差別されてはいけない」などの理由で被爆直後には手帳を申請しなかった人もいる。高齢になって取得しようとした時には証明してくれる人がいないというケースも目立つ。

 「福島でも希望者は健康管理をしてあげるべきだと思う」と話すのは、広島共立病院(広島市安佐南区)健診センター長の青木克明医師(63)。長年被爆者医療に携わってきた。被爆者健康手帳をめぐって、同じような「線引き」に苦悩をする姿を何度も見た。

 こうした「証人捜し」を日本被団協は1972年からサポートしてきた。今も年に約10人からの相談がある。それでも取得に結び付くのは半数程度という。

地区で「線引き」

 難しい問題は他にもある。広島の原爆投下後に降った「黒い雨」。国が定めた「大雨地域」の住民は無料の健診を受けられ、がんなどが見つかれば被爆者健康手帳も取得できる。一方で「小雨地域」は無料健診さえ受けられない。

 その「線引き」は地区単位。つまり川や道路を一本挟むだけでその保障が全く違うという事態が起きた。住民たちはいまだに大雨地域の拡大を国に要望する。

 目に見えない放射線。それだけに住民の不安は募る。青木医師は訴える。「ヒロシマの負の歴史を繰り返してはいけない。被災者の立場に立った援護政策が必要だ」=第4部おわり

(2011年7月31日朝刊掲載)

年別アーカイブ