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3.11とヒロシマ

『フクシマとヒロシマ』 第5部 今やるべきこと <1> 

広島中央保健生活協同組合 藤原秀文副理事長

被曝問診票をつくる

 放射線の影響は将来、どのように表れるか分からない。福島第1原発の事故直後からいつ屋外にいたか、どのような水を飲んだかなどを記録することは診療の貴重な資料になる。医療機関では、被災した人の問診票に記録を残していくことが重要だ。

入市被爆と共通

 全日本民主医療機関連合会(民医連)緊急被曝(ひばく)事故対策本部会議は4月に住民各自が記入する行動記録ノートと、医療機関が患者から聞き取って保存する問診票をつくった。形式は問わないので全国の医療機関にそのような問診票をつくってほしい。

 問診票の参考にしたのが、原爆被爆時の状況や直後の症状などを書き込む原爆症認定訴訟の認定申請書だ。訴訟で焦点の一つとなったのは残留放射線の影響だった。入市被爆と、低線量放射線を持続的に受けている今回の原発事故の住民とは共通する部分もある。

 一部の専門家は、生涯の被曝量が100ミリシーベルト以下なら安全と言い切るが、安全が証明されているわけではない。骨折しやすい人としにくい人がいるように、放射線の影響の受けやすさも個人差がある。リスクはあるものとして対処すべきだ。

 問診票の表には、治療中の疾患と服薬内容のほか、事故後の体調悪化や不安、困りごとを尋ねる欄を設けた。裏は、3月11日以降の行動を書くスペースにした。医療関係者が聞き取る場合は、地図や事故の経過表を見せて行動のイメージを持ってもらうことも有効だろう。  2、3人のグループで話をしてもらうと思い出しやすい。「あの日は雪が降ったね」「寒い中で大根を掘ったよ」など。原爆症認定訴訟で黒い雨が重要視されたように、雨を浴びたかどうかは重要だ。

補償する姿勢を

 もちろん問診票や行動記録は「書いたけど、意味がなかった」と取り越し苦労に終わるのが一番いい。だが広島、長崎の原爆による健康影響でも何年もたって初めて分かったことも多い。倦怠(けんたい)感に襲われる原爆ぶらぶら病と呼ばれた症状は当時、医療機関でも適切に診てもらえなかった。

 私たちは広島、長崎の被爆者に対し、病気が被爆と関係ないと証明されない限り、被爆の影響を受けているとする立場を貫いてきた。原発周辺の住民に何らかの症状が目立った時には被曝と関係あるとして補償していく姿勢が必要だろう。(衣川圭)

ふじわら・ひでふみ
 1956年、広島市佐伯区生まれ。鳥取大医学部卒。広島中央保健生活協同組合に福島生協病院の内科医として勤務し、2008年から現職。民医連緊急被曝事故対策本部会議の副本部長も務める。西区在住。

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 放射線の影響とどう向き合い、地域が復興に歩みだすためにはいかなる支援や取り組みが必要なのか。6人の専門家の提言を聞く。

(2011年8月28日朝刊掲載)

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