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3.11とヒロシマ

『フクシマとヒロシマ』 第5部 今やるべきこと <4>

東京大先端科学技術研究センター 児玉龍彦教授

ゲノムで発症を予測

 広島の原爆よりもはるかに多い放射性物質が福島第1原発から放出された。熱量換算で広島原爆の29.6個分、ウラン235換算で20個分。放射線に感受性が高い子どもや妊婦の内部被曝(ひばく)が最も心配だ。

解明10年スパン

 原爆被爆者の場合、最初は放射線の影響が分からなかった。分かるようになってきたのは特定集団を追跡する疫学調査の結果だ。つまり10年スパンでようやく明らかになった。チェルノブイリ原発事故(1986年)でも子どもの甲状腺がんが増えたと認められたのは20年後だった。20世紀のやり方といえる。

 今は21世紀。人間のゲノム(全遺伝情報)が解読できるようになり、低線量被曝による人体への影響が確率論ではなく、科学的に分かるようになった。福島では今後起こりうる放射線障害を予測し、住民に病気が発症しないように備えることが非常に大切だ。

 ゲノムの解析で発がんのメカニズムが詳しく分かれば、正確な診断ができるようになり、がんの予防や早期発見につながる。体の部位や臓器ごとに健康障害の予防策を考えていくことも可能だ。

 例えば大きな問題になっているセシウム137。チェルノブイリ原発事故ではこの内部被曝の影響で、原発周辺の住民のぼうこうに異常が出たことが報告されている。

 福島でも厚生労働省の調査で、それと同じレベルの量のセシウムが検出された。であれば、いずれぼうこうに異常が起きると予測し、早期発見に努めればいい。

チェック徹底を

 広島の原爆では放射能汚染が1年で千分の1になったとされる。しかし原発事故では半減期が長い放射性物質が多く放出されるため、1年で10分の1程度にしか減らない。福島県民は長期間、被曝の危険と向き合うことになる。

 国や専門家は安全基準が1ミリシーベルトだ、20ミリシーベルトだ、という議論を延々としている場合ではない。最先端の科学技術で放射線障害を予測するのが科学者に課せられた使命。そして地域の除染と食品汚染のチェックを徹底するべきだ。科学者も政治家もマスコミも総力をあげて、子どもと妊婦を内部被曝から守らなければならない。(河野揚)

こだま・たつひこ
 1953年、東京都生まれ。東京大医学部卒。マサチューセッツ工科大研究員などを経て、2004年から現職。東京大アイソトープ総合センター長も兼務する。専門はシステム生物医学。東京都世田谷区在住。

(2011年8月31日朝刊掲載)

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