×

3.11とヒロシマ

『フクシマとヒロシマ』 第6部 チェルノブイリから <1> 食品汚染

日本の基準 甘さ際立つ

 「日本の基準値は甘すぎる。驚いた。理解できない」。ベラルーシから来日したベルラド放射能安全研究所のウラジーミル・バベンコ副所長は今月中旬、東京都内で講演。日本政府の食品の暫定基準値の高さを指摘した。1986年のチェルノブイリ原発事故後、この最大の汚染地で食品汚染を調査している。

 例えば飲料水の日本の基準値は1リットル当たりセシウムで200ベクレル。ベラルーシの現行基準の20倍にあたる。牛肉は同じだが、野菜は約6.8倍、パンは12.5倍…。「事故直後なら分かるが、半年過ぎても緊急時の基準をまだ適用している。国民の不信をあおり、混乱を助長するだけだ」

段階的に厳格化

 国際放射線防護委員会(ICRP)などによると、旧ソ連はチェルノブイリ事故直後、いったんは1キロ当たりのセシウムの基準値を飲料水や牛乳は370ベクレル、牛肉は3700ベクレル―などと設定した。これは福島第1原発事故を受け、政府が3月17日に定めた食品の暫定基準値よりも緩やか。「外部被曝(ひばく)と内部被曝合わせて年間100ミリシーベルト以下」とするよう計算したという。

 しかし、翌87年には年間線量限度を50ミリシーベルト、続いて30ミリシーベルト、5ミリシーベルトと段階的に厳格化していった。ソ連崩壊で91年に独立したベラルーシは98年までに「年間1ミリシーベルト」まで下げた。特に子ども向け食品は別枠を設けてさらに厳しく規制する。

 それでも―。今回訪れたベラルーシでは四半世紀を経た今も人々が健康不安に脅かされている。そして実際、ホールボディーカウンター(全身測定装置)では体内からセシウムが検出されている。

 一方、日本では7月、食品安全委員会が線量限度を「生涯で100ミリシーベルト以下」として基準値を見直すべきだとする見解を表明した。しかし内部被曝と外部被曝の内訳は示されず、新たな基準値づくりをどう進めるのかさえ見えない。

連帯を呼び掛け

 ベラルーシでは、西欧などの支援を受けたベルラド研究所など民間が食品汚染の実態を指摘し続けてきた。広島市中区出身で被爆2世でもある、京都大原子炉実験所(大阪府熊取町)の今中哲二助教もデータ解析などに協力している。

 同研究所は90年の設立以降、汚染地域の学校などに「放射線学文化研修センター」を設置。農作物の汚染測定のほか、専門家の指導を受けた生徒による地域の汚染調査などを支援してきた。

 バベンコ氏を招いた講演会場。「日本の基準は大丈夫か」「食品汚染から子どもをどう守ればいいのか」―。200人余りの参加者から悲痛な質問が切れ間なく続いた。

 バベンコ氏は呼び掛けた。「日本でも地域ごとに住民の組織をつくり、ネットワーク化してほしい。連帯し、古里の大地で生き続けよう」。民の力が苦境を切り開くと確信している。(山本洋子、河野揚)

 チェルノブイリ原発事故から25年。この間の東欧の試行錯誤をフクシマにどう生かせるのかを探る。

(2011年10月27日朝刊掲載)

年別アーカイブ