×

ニュース

海自呉地方隊60年 第1部 おおすみの波紋 <5> 増す役割 大型艦に備え施設拡張

 海上自衛隊呉基地から呉湾に向け、桟橋が3本突き出している。その一つ、浮き桟橋のFバースは長さ240メートル。2014年度に420メートルになる。呉地方総監部は「大型艦船の増加に対応するため」と説明。12~14年度で約72億円を投じる。

 九州や近畿地方の一部を含む呉地方隊担当区域に配備された艦船は42隻。中心となる呉基地は39隻だ。護衛艦や輸送艦、潜水艦、補給艦、掃海艇など種類も多岐にわたり、今でも施設は手狭だ。

 軍事評論家の前田哲男さん(75)は「自衛隊の海外展開を進めようとする安倍政権下では呉の重要度はさらに増す」とみる。

 昨年、国が防衛・外交の指針として初めて策定した国家安全保障戦略は、中国との対立長期化を視野に防衛力強化を掲げる。今後10年程度の指針を示す新たな防衛大綱には、海自隊の護衛艦を7隻、潜水艦を6隻増やすと明記する。受け皿を整える必要もあり、呉基地の役割も高まる。

活動強化 懸念も

 海自隊の艦船が初めて海外任務に向かったのも呉基地からだ。1991年のペルシャ湾への掃海部隊派遣。以降、呉からの派遣は続く。テロ対策特別措置法(新法を含む)に基づくインド洋での給油活動、アフリカ東部ソマリア沖アデン湾での海賊対処活動、国際援助活動。昨年まで延べ38隻が出港している。

 1月15日に大竹市沖で釣り船と衝突した大型輸送艦おおすみも、事故の1カ月ほど前まで海外にいた。昨年秋の台風30号で甚大な被害を受けたフィリピンのレイテ島沖。自衛隊の国際緊急援助隊を運ぶなどして昨年12月20日に呉基地に戻った。

 活動強化への懸念、反対の声もある。NPO法人ピースデポ(横浜市)の湯浅一郎代表(64)は1月31日、呉市で講演。「専守防衛といいつつ装備面をみれば軍隊。現状をどう考えますか」と集まった市民に問題提起した。

「印象良い」9割

 ただ、自衛隊への市民感情は良くなっている。12年の内閣府世論調査では、自衛隊の印象を「良い」とする人の割合は91・7%で、調査を始めた1969年以来最も高かった。東日本大震災の被災地支援がイメージを高めたとの分析だ。

 おおすみの事故から8日後の1月23日。公演を控えた海自隊呉音楽隊の公開リハーサルがあり、親子連れたち約70人が集まった。地域の行事に隊員が参加し、基地関係のイベントに市民が集う。地元に根を下ろした呉地方隊と呉基地。60周年の節目がまもなくやってくる。=第1部おわり(この連載は小島正和が担当しました)

(2014年2月9日朝刊掲載)

年別アーカイブ