×

社説・コラム

天風録 「鳥越駅の詩碑」

 駅舎の傍らの詩碑は津波に耐えた。「たうたうたうたう尖(とが)ったくらいラッパを吹く」。宮沢賢治「発動機船 第二」が刻まれる。岩手県田野畑村の島越(しまのこし)駅を訪ねたことがある▲村から海原に出た船の吹鳴を賢治は何の合図と受け止めたのだろう。へさきを沖へ向けるイメージで、碑は海岸線に対し直角に立つ。ドーム型の駅舎は流された。碑は尖った角度が幸いして水塊をかわした▲あす、三陸鉄道の北リアス線が全線復旧する。駅舎がよみがえるのは少し先だが、島越でも大漁旗が出迎えるという。漁をなりわいにする村民の再起の道は険しい。それでも必ずや励ましになろう▲震災の3カ月後、元広島県職員の浅野知二さんは代行バスを交えて全線を縦断した。三鉄本社では、被爆から再起した路面電車の絵柄の缶入りクッキーを手渡して喜ばれる。乗ることも支援だ、と安心した▲「水の向ふのかなしみを/わづかに甘く咀嚼(そしゃく)する」と長い詩は終わる。賢治の時代にも見舞われた大津波で、またも悲しみに満ちた海辺が今はどうだろう。同時に全線再開する南リアス線とあわせて浅野さんは今年も旅し、話を聞く。少し雰囲気が落ち着いた6月ごろに、と考えている。

(2014年4月5日朝刊掲載)

年別アーカイブ