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社説・コラム

社説 原子力協定承認へ 核拡散の懸念拭えない

 このような内容の原子力協定を結んでいいのだろうか。日本とトルコが合意すれば、トルコは使用済み核燃料を再処理できるという。きのうの衆院本会議で締結の承認案件が可決された。承認は確実な情勢である。

 協定は核物質や原子力関連の機材を輸出する場合に、相手国と結ぶ。使用済み核燃料からプルトニウムを取り出して核兵器の原料にする軍事転用を防ぐためだ。

 ところが安倍政権は原発輸出の国際競争に負けてはならじと、前のめりのようだ。被爆国が核拡散の懸念を広げることになりはしないだろうか。

 問題の条文は「核物質は、両政府が書面により合意する場合に限り、再処理することができる」としている。再処理を肯定しているように受け取れよう。同時に承認されたアラブ首長国連邦(UAE)のほか、ベトナム、ヨルダンとの協定が「再処理されない」と表現しているのに比べ、違和感は大きい。

 衆院外務委員会で議員からその点をただされ、岸田文雄外相は「日本が認めることはない。実質的には日本の思いは実現できる」と、合意はあり得ないと強調した。

 ならば、協定の内容を変えるのが筋であろう。世界情勢は刻々と変わっていく。国会の場での大臣の発言は重いとはいえ、それだけで担保になろうか。

 しかも、自民党の外交部会で問題になり、了承を得るための条件として答弁したという。

 この条文としたのは、トルコから強い要求があったためらしい。核兵器の開発につながる道を将来に残しておこうとも読み取れる。再処理はしないとなぜ言い切れないのか、きちんと確認したのだろうか。

 プロジェクトは黒海南岸のシノップ地区で、日本企業などが軽水炉4基を建設する予定である。総事業費は2兆2千億円を見込む。

 安倍政権は原発輸出を成長戦略の柱の一つとしている。原発輸出は中国、韓国などと激しい競争を繰り広げ、安倍晋三首相自らトルコを訪問して熱意をアピールしていた。成果を急ぐあまり、足元を見られた側面はないのだろうか。

 被爆国なら、核不拡散の厳しいルールづくりこそ、主導すべきだ。それなのに今回のような協定を結ぶとは、トルコも参加する核拡散防止条約(NPT)の枠組みを空洞化させることにもつながりかねない。オランダで開かれた核安全保障サミットで、プルトニウムなど核物質の保有量を減らすとの合意とも矛盾することにもなろう。

 そもそも、福島第1原発事故は収束にはほど遠く、大量の汚染水漏れの対策は後手に回っている。この段階で積極的に原発輸出を進めること自体、どうなのか。

 トルコは日本と同様に活断層が多い地震国である。日本では原発事故を教訓として従来より厳しい新規制基準を設けてはいるが、再稼働の申請を受けた安全審査は途上である。

 安倍政権は原発事故後では初めて原子力協定に署名し、ブラジルなどとも輸出への交渉を続けている。核保有国のインドとも協定を結ぼうとしているのはとりわけ問題だ。立ち止まって考え、議論する慎重な姿勢が求められていよう。

(2014年4月5日朝刊掲載)

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