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社説・コラム

社説 大間原発提訴 「地元」の意味 問い直す

 原発の「地元」とは一体、どこまでの範囲を指すのか。その答えを見いだすのが、この裁判の大きな意味合いであろう。

 北海道函館市が国や電源開発(Jパワー)を相手取り、青森県大間町の大間原発の建設中止を求めて東京地裁に提訴した。

 原発「周辺」自治体が起こした異例の訴訟である。ひとたび福島第1原発のような事故が起きれば、影響は立地自治体にとどまらない。それでもリスクを忘れたかのように大間原発の建設は進む。今回の提訴は、市が司法に「被害地元」としての認定を求めたともいえよう。

 しかも列島各地で既存原発の再稼働が秒読み段階に入ろうとする今、この問題提起は大間原発周辺に限った話ではない。司法には迅速な審理とともに、原発の「地元」についての明確な判断を期待したい。

 2008年に着工された大間原発は東日本大震災のため、建設工事が40%近くまで進んだ段階で、いったん止まった。

 函館市はその大間原発から津軽海峡を挟んで最短23キロの距離にある。すなわち震災後、防災・避難計画の策定が求められるようになった半径30キロ圏の緊急防護措置区域に含まれる。

 ところが12年秋にJパワーが建設工事を再開した際、計画の凍結を求めてきた市には、事前連絡もなかったという。

 さらに大間原発は世界で初めて、ウランとプルトニウムの混合酸化物(MOX)燃料だけで運転するよう設計された商業炉である。「フルMOX」と呼ばれ、炉心内にプルトニウムが大量に含まれる。

 万一、甚大な事故が起きれば既存原発よりも被害が深刻で、北海道にも広がる懸念は拭えない。住民の避難計画を作り、訓練もする必要がある。それでも立地自治体とは違って原発の建設や稼働に発言権はない-。市が理不尽だと訴えるのは当然ではなかろうか。

 訴状はこのほか、津軽海峡に長大な活断層が存在する可能性が高いと指摘する。原子炉の設置を許可した震災前の基準では安全が保てないとも訴える。

 函館市議会が全会一致で今回の提訴を承認したのは、これらの点に不安を抱く市民の総意といえるだろう。国とJパワーは少なくとも新規制基準で大間原発の安全審査が終わるまでは建設を凍結してはどうか。

 しかし国側は、市側に訴訟を起こす資格があるかどうかという「原告適格」を争点に、訴えの「門前払い」を目指すとされる。もしそうなら函館市民だけでなく、国民の反発は一段と強まろう。

 原発の「地元」をどう捉えるかについて、各地で大きな議論になっているからだ。

 松江市の中国電力島根原発をめぐっても、30キロ圏内の出雲市などは再稼働への発言権を求める。ところが溝口善兵衛知事はおととい、「周辺と立地(自治体)の意見が一致することが必要」と述べ、国に対して「地元」の拡大を要望することに現時点では消極的な姿勢を示した。

 こうしたすれ違いは、再稼働を急ぐ安倍政権の前のめり姿勢が招いたといえるだろう。政府は原発を「重要なベースロード電源」と位置づける。ならばリスクにさらされる広範な住民の不安にも、国は責任ある態度で耳を傾けるべきだ。

(2014年4月6日朝刊掲載)

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