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社説・コラム

憲法 解釈変更を問う 元外務省主任分析官の作家・佐藤優さん

容認は「負の連鎖」生む

焦らず中身ある議論を

 外交や安全保障は「生き物」だ。集団的自衛権について考える時、それを意識しなければならない。今はウクライナ情勢が動き、ロシアによるクリミア編入強行に対し、西側諸国は有効な手だてを打てていない。国際社会の秩序が不安定になれば、集団的自衛権の位置付けは変わってくる。

 1985年、外務省に入省した。対ロシア外交の情報専門家として、在ソ連(在ロシア)大使館などに勤務。2002年、外務省関連の国際機関に対する背任などの疑いで東京地検に逮捕され、09年に有罪判決が確定、失職した。現在は執筆活動に加え、論壇でも活躍する。

 私は、自衛隊のインド洋での給油活動やイラク派遣は事実上、集団的自衛権の行使と捉えている。日本が今のまま「行使しない」と言い続ければ、国際社会からうそつきとみられると思ってきた。その考えは変わらないが、今のタイミングでの行使容認には反対だ。クリミアで万が一戦争になった場合、それに巻き込まれたくないからだ。

 仮に行使を容認して自衛隊をクリミアに派遣することになれば、ロシアの反発を買い、北方領土交渉は全部止まる。北方四島周辺の日本の漁船は銃撃されるだろう。日本政府はクリミア戦争に自衛隊を絶対に派遣すべきでない。

 国際社会は日本の集団的自衛権の議論を脅威に感じている。ウクライナ情勢が落ち着く前に行使を容認すれば、感情的な「負の連鎖」を生み出し、結果的に日本の安全保障を弱体化させる恐れがある。今、行使をめぐる議論は必要ない。

 自民党は3月末、安倍晋三首相の直属機関として設置した「安全保障法制整備推進本部」の初会合を開き、集団的自衛権の憲法解釈見直しをめぐる党内議論を始めた。党内では、行使を限定的に容認する意見も出ている。

 私の目には、安倍首相はあまり物事を深く考えないまま、場当たり的に対応しているように映る。焦って憲法解釈を変更する理由が分からない。議論の中身も軽い。「限定的」などと形容詞を付けて本質をごまかすような言葉遊びはやめるべきだ。集団的自衛権の行使を容認するとは、自衛隊はどこへでも赴くという話だ。

 行使容認は国の在り方を大きく変え、最悪の場合は国家滅亡につながることもあり得るということを理解しなければならない。政治家や官僚たちの勝手な判断で行使が容認され、日本が戦争に巻き込まれたら、国民は悔やんでも悔やみきれない。

 行使容認の是非を判断するのであれば、国際情勢を正確に把握した上で、日本の安全保障に与えるメリット、デメリットを国会でしっかりと議論すべきだ。与野党の考えが出尽くしたところで、集団的自衛権を争点の一つとして解散総選挙をするのが絶対条件だ。民意の信任を得ず、このまま憲法解釈の変更に踏み込んではいけない。(聞き手は松本恭治)

(2014年4月11日朝刊掲載)

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