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連載・特集

さまよう1票 第1部 政権交代再び  原発の行方

自民支持層にも賛否  「情報公開や国民的議論を」

 「原発は造らないほうがいい。でも誰に投票するかは総合的に考えた」。山口県周防大島町和田で農家レストラン「げんきや和(なごみ)」を経営する佐藤哲夫さん(71)は、昨年12月の衆院選を思い起こす。

 衆院選では原発政策の在り方が争点の一つとなった。山口2区では中国電力が同県上関町で上関原発建設を計画する。建設予定地は、店から海を挟んで約35キロの距離にある。

 佐藤さんは福島県伊達市出身。6年前、神奈川県で教員生活を終え、美しい海と人情にひかれ移住した。2011年3月、福島第1原発事故が発生。住民が古里を追われる姿を見て原発計画に不安を抱くようになった。

デフレ脱却重視

 だが衆院選で選んだのは自民党新人の岸信夫氏(53)。計画への賛否は示していなかった。「原発事故が心配だが経済や外交も大事だから」と佐藤さん。民主党元職の平岡秀夫氏(59)は反原発を訴えたが、デフレ脱却や領土問題への対応を期待し自民党を選択した。

 中国新聞防長本社が12月16日の投開日を中心に、山口2区の有権者743人から回答を得た出口調査でも同様の投票行動が多かったことが分かった。岸氏に投票した人の51%が上関原発計画を「進めるべきだと思わない」と回答。「進めるべきだ」の16%を大きく上回ったのだ。

 計画が浮上した1982年以来、推進派が町長選を制し町議選で過半数を占めてきた上関町でも、有権者の意識に変化が出ている。

 福島の事故まで推進派だった60代の男性は今回も自民党に入れた。景気対策に期待した。だが原発への思いは違う。「事故が起きたら人が住めなくなる。建てん方がいい」

 多くの争点がある中、1票にさまざまな思いが託される。かつて原発建設を進めた自民党は有権者の思いをどう受け止めるのか。

 安倍晋三首相(山口4区)は30日の衆院本会議で代表質問に答え、「30年代の原発ゼロ」「原発の新増設はしない」を掲げた民主党政権のエネルギー戦略を「ゼロベースで見直す」と明言。実弟の岸氏も「原発なしでコストが増せば企業活動ができない業種もある。家庭の電気代も上がる」と原発ゼロに疑問を呈する。

 こうした原発政策の転換の動きに、上関町の推進派でつくる「町まちづくり連絡協議会」の古泉直紀事務局長(54)は「町内は原発建設に期待して自民党に入れた人が多い。安全を前提に計画を進めてほしい」と話す。

福島県から招く

 佐藤さんは昨夏、福島県の小中学生18人を10日間、島に招いた。外出を制限されて青白かった顔は海で日焼けし、「帰りたくない」と泣いた。子どもに我慢を強いる原発事故を二度と起こしてはならない、と強く思った。

 投じられた1票は「全面委任」ではなく、「信頼できるデータを公開し、国と国民が一体となって議論できるようにしてほしい」との思いが込められている―。佐藤さんは機会をみて、そう自民党に直言するつもりでいる。(久保田剛、山田英和、武河隆司)

国の原発政策
 1970年代の石油危機を教訓に、自民党政権が国策として原発建設を推進。福島第1原発事故を受けて2012年5月、国内の商業用原発の全50基が運転停止した(現在は大飯原発3、4号機だけ稼働)。民主党政権は30年代に原発ゼロを目指す新戦略をまとめたが、同党は12月の衆院選で大敗。政権に復帰した自民党は10年以内に電源構成のベストミックス(最適な組み合わせ)を確立する方針で一定の原発維持に含みを持たせる。中国電力は山口県上関町の上関原発予定地の造成工事を中断している。

(2013年1月31日朝刊掲載)

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