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連載・特集

松井広島市政 任期残り1年 ヒロシマ発信 体制一新 海外で訴え

問われる「長」の存在感
  広島市は3月1日、太平洋のマーシャル諸島で開かれた、米国による水爆実験被曝(ひばく)者の追悼式典に初めて公式参加した。「ビキニデー」60年の節目。松井一実市長の代理として、あいさつに立ったのは広島平和文化センターの小溝泰義理事長(66)だった。「核兵器は絶対悪。平和をつくり出すため共に力を尽くそう」。その呼び掛けに、会場からは大きな拍手が起きた。
司令塔には小溝氏
  松井市長は昨年4月、平和行政の推進体制を一新した。自らが会長を務め、2020年までの核兵器廃絶を目指す平和首長会議の司令塔として、センターに据えたのが外交官経験豊富な小溝氏だった。 米国の「核の傘」に安全保障を頼る外務省の出身者という「サプライズ人事」。就任前、市民団体から「被爆地と相いれない」との批判も起きた。しかし、核抑止力の限界を訴え、核兵器廃絶への熱い思いを語る姿に、地元の理解は広がっている。 小溝氏起用は松井市長の平和行政の転機でもあった。被爆地で惨状を見てもらう「迎える平和」に加え、「出掛ける」策も展開。小溝氏を欧米やアジアへ5回、計59日派遣した。6千に達した平和首長会議の地域グループづくりを進め、人脈を駆使して各地の非政府組織(NGO)とも協力関係を広げている。 ただ「市長代理」の精力的な活動の裏で、ヒロシマ市長が表舞台で自ら力強く発信することを求める声はくすぶる。
国への影響力期待
  秋葉忠利前市長は3期12年で計355日出張し、29カ国を訪れた。核兵器廃絶へ向け、国際舞台で英語で積極的にスピーチ。都市の力を結集した廃絶実現にも尽力した姿が、市民に強く印象に残っている。 また近年は、ヒロシマの首長として広島県の湯崎英彦知事が存在感を高めている。7日に、各国の核軍縮や不拡散の取り組みを採点した「ひろしまレポート」の第2弾を発表。24日からは渡米し、知事として初めて核拡散防止条約(NPT)再検討会議の準備委員会を傍聴する。そんな中でヒロシマ市長の存在は埋没した感がある。 11、12の両日には、核兵器を持たない12カ国でつくる軍縮・不拡散イニシアチブ(NPDI)が日本で初めての外相会合を広島市で開く。そこでの議論に平和首長会議も提唱している核兵器禁止条約を取り上げることに、日本の外務省は及び腰だ。 市民団体「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」(HANWA)の森滝春子共同代表(75)は「議論するよう要請したが、私たちの声だけでは届かない。被爆地の長の影響力をもっと発揮して」と期待する。 その松井市長。4日の記者会見で、外相会合が核兵器禁止条約に言及することを期待するかどうかを問われて「1歩、2歩前進する議論を」と述べるにとどまった。そこには政府への配慮も透けて見える。被爆70年の来年は4月下旬から、NPT再検討会議も開かれる。市がそこにいかに臨むのか。リーダーシップが問われる1年となる。(田中美千子) <松井市長と小溝理事長の2013年度の海外出張>
松井市長 小溝理事長
4月20~26日(7日間) スイス・ジュネーブ 4月19~26日(8日間) スイス・ジュネーブ
5月8~14日(7日間) ドイツ・ハノーバー 9月11~29日(19日間) 英マンチェスター、米ニューヨークなど7市
11月10~19日(10日間) タイ・バンコク、豪フリマントルなど4市
2月4~17日(14日間) 米アクロン、メキシコ・ナヤリットなど4市
2月25日~3月4日(8日間) マーシャル諸島・マジュロ
2回計14日間 5回計59日
平和首長会議 1982年に広島、長崎両市長の呼び掛けで発足した「世界平和連帯都市市長会議」が前身。90年に国連広報局の非政府組織(NGO)に登録された。2001年に平和市長会議、13年に平和首長会議に改称。広島市長が会長、長崎市長が副会長を務める。今月1日現在、158カ国・地域の6千都市が加盟。 (2014年4月10日朝刊掲載)

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