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社説・コラム

天風録 二つの「ロード」

 極太麺に濃厚ソース。福島県浪江町の名物、焼きそばを本場で味わう。といっても原発事故からの避難先の店で。周りの客もわが家を追われた住民で、何げない会話ににじむ望郷の念に胸が詰まった▲思い出したのがジョン・デンバーさんの曲「カントリーロード」だ。帰れない古里の山や川を懐かしみ、わが身を連れていけと歌った。福島の人たちの心根にマッチしたのだろう。3・11後によく口ずさまれると聞く▲片や国が持ち出す「ベースロード」はどうにも胸に響かない。原発の位置付けである。もとは業界の技術用語らしいが、根底から必要と言いたいのをぼかしたふしがある。片仮名でけむに巻くのは役人の得意技なのか▲辞書を引くと、こちらのロードは道ではなく「負荷」の意のようだ。あの日から3年と1カ月、わが家へ戻る道筋が立たない被災者は不安と焦りを募らせる。なし崩しの原発復活が、心の奥底で重荷にならねばいいが▲17年前に事故で世を去ったデンバーさんは反核と自然保護に心を砕いた。今のニッポンをどう見るだろう。存命なら、本当に気持ちを揺さぶる英語の歌を作ってもらいたいところだ。福島の地で熱々の麺でも食しながら。
(2014年4月12日朝刊掲載)

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