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社説・コラム

憲法 解釈変更を問う 安保法制懇座長代理・北岡伸一さん 

「個別的」だけでは不十分

法整備後 運用慎重に

 集団的自衛権を行使することには慎重な立場だ。悪化している日本の安全保障環境を考え、まっとうな安保体制をつくる法整備が必要と思うだけだ。だが、さまざまな法律に欠陥がある。その根っこをたどると、誤った憲法解釈に行き着く。憲法9条が許容する「必要最小限度の自衛権の行使」に集団的自衛権が含まれないという解釈は間違っている。

 個別的自衛権しか認めないというこれまでの解釈は、同盟国である米国が世界で圧倒的に強かった時代であれば良かった。だが現在、中国の軍備費は増大し、米国の地位は相対的に低下した。個別的自衛権だけで大丈夫であると言えない状況だ。

 東京大卒。同大教授、政府国連代表部次席代表などを経て、現在は国際大学学長。専門は日本政治外交史。安倍晋三首相が設置した安全保障に関する有識者懇談会(安保法制懇)の座長代理を務め、安全保障に関する首相のブレーンの一人だ。

 安保法制懇の報告書では、行使には①密接な関係にある国が攻撃を受ける②放置すれば日本の安全に大きな影響が出る③当該国から明示の要請がある④第三国の領域通過には許可を得る⑤首相が総合的に判断する⑥国会の承認を得る―の6条件を付ける。世界標準より厳格化した内容だ。

 世界に、個別的か集団的かと自衛権について議論している国はない。そもそも安全保障の本質は相手の裏をかくこと。全てをマニュアルとして書けはしない。報告書では事例を挙げるが、そのほかはやらないということではない。

 自民党と連立を組む公明党には、政府が集団的自衛権行使を想定する具体例に関し「個別的自衛権や警察権の範囲で対応できる」との主張がある。

 例えば朝鮮半島有事の際、周辺事態法では、自衛隊による米軍の後方支援は、戦闘地域と一線を画する「後方地域」でないとできない。米軍が日本の平和、安定のために周辺で戦い、不当な攻撃を受けている時に助けに行くのは当然と思う。日本は助けてもらっているのに、米軍を助けない。それは世界では通用しない。

 助けに行けるように法律を見直す場合、どう考えたら個別的自衛権で対応できるというのか。以前からそうした話はあるが、具体的な法案をこれまで見たことがない。

 東日本大震災の時、「想定外」という言葉が繰り返された。その言葉は結局、官僚を甘やかしている。官僚は危ないことが起きれば逃げる。法律などを整備し、「お上」にきちんと対応させないといけないのが自然災害であり、安全保障の分野だ。

 世界中の国は集団的自衛権を認めている。それで軍国主義になった国はあるだろうか。軍国主義と集団的自衛権、安全保障の問題は関係ない。安倍首相はタカ派と言われるが、20カ国・地域(G20)首脳会合のメンバーで安倍首相よりハト派はいない。世界と同じ基準で考えてほしい。(聞き手は城戸収)

安保法制懇
 集団的自衛権行使を禁じた憲法解釈の見直しに向け、安倍晋三首相が第1次政権時代の2007年に設置した私的諮問機関。官僚OBや学者たち有識者14人で構成する。第2次政権発足に伴い、13年2月に再開。これまで6回の会合で公海上の米艦船防護やシーレーン防衛など集団的自衛権や、国連平和維持活動(PKO)での武器使用基準、有事に至らない事態への自衛隊対処を話し合い、報告書のとりまとめに入っている。正式名称は「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」。

(2014年4月20日朝刊掲載)

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