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社説・コラム

『言』 「志産志消」の勧め 地域活性化の手掛かりに

◆児玉克哉・三重大副学長

 地産地消の取り組みが広がって久しい。このところ三重県で語られるのが「志産志消」という言葉である。安芸高田市出身の児玉克哉・三重大副学長(55)が提唱したもので、地域の産品の質を高めて幅広い消費者に買ってもらう方法論という。平和研究で知られる社会学者がなぜこうした発想に至ったのか。(論説委員・岩崎誠、写真も)

 ―なじみのない考え方ですがどんな意味なのですか。
 生産者が志を高く持ってつくったものを、消費者の方も志を持って評価し、少しばかり高くても買うことです。デフレ下でとにかく安ければいいと全てが価格競争に組み込まれ、効率性が優先されてきた流れを変えることにもなります。

 ―具体的な例としては。
 有機農法を考えてみましょう。労力とコストがかかる一方で高い価格設定をすれば普通の市場で思うように売れず、志ある農家でも厳しい。しかし消費者の側が作り手の思いに共鳴し、安全でいいものを買いたいという意識をもっと持てば違ってきます。苦労した人が報いられる社会をつくる運動であり、消費者運動ともいえます。

 ―発展途上国の製品を適正な価格で買う「フェアトレード」にも似ていますね。
 私自身も携わっています。例えばバングラデシュやインドの綿作は経済効率を優先して農薬を大量に使いますが、控えるなら価格がかなり高くなる。その分を消費者が負担します。貧しい国はかわいそうだと考えて買うのではなく、作り手の健康に優しい製品という「志」に、対価を払うんです。まさに志産志消の発想も一緒なんですね。

 ―いわば、その国内版ですか。国際的な平和構築の専門家ならではですね。
 疲弊した地域や農林漁業の再生の手掛かりになるでしょう。ですが、困っているから手助けするのではありません。どんな志で生産し、どんなコンセプトで売りたいのかを地域として打ち出す。その価値を理解した消費者が買いたいと応じる。そんな仕組みです。安全安心に、自然や地域の文化を守ること。志のテーマはさまざまあるはずです。各地の和牛にしても味の違いだけではなく熱いメッセージが必要となってきます。

 ―これまでの地産地消では、不十分なのでしょうか。
 多くの自治体が学校給食などさまざまに取り組んでいますがどうしても限界があります。一種の保護貿易のような面があるからです。人口の少ない地域ほどマーケットは小さい。地域愛という意味はあるにせよ、単に地元のものだから食べるというだけでは経済的な効果でみれば行き詰まります。品質のいいものなら生産地にとどまらず、ほかの多くの地域にこそ提供しなければならないはずです。

 ―理念はよく分かります。運動を広げていく方法は。
 三重県では志産志消シンポジウムなどを開きましたが、具体化はこれからです。むしろ全国展開を考えた方が前に進むのではないでしょうか。推進母体の民間団体をつくって各地の産品の登録を受け付け、PRする方法もあります。年間大賞や優秀賞を設けてもいい。付加価値のあるものを売りたいスーパーなども飛びつくでしょう。消費者も会員制にして産品についての情報を流し、生産者と交流できるフェアを開けば喜ばれるかもしれません。

 ―モノを売るだけでなく人を呼ぶことにも生かせますね。
 その通りですね。広大な森と美しい海があり、熊野古道もある三重県の南部を「よみがえりの里」とする構想を私は提案しています。これも志産志消の一例であり、アトピーに悩む子どもへの対策から思いつきました。安心できる食材を出し、健康づくりメニューも用意して長期滞在で心身とも元気になってもらう。これなどは中国地方でも応用できると思います。

 ―地域や自治体のアイデア力が試されるわけですね。
 志を持ち、いい社会をつくるのが基本です。それがあるところと、ないところで勝ち負けが出るのは仕方ありません。求められるのはコーディネート力ですね。6次産業という言い方がありますが、そこに4次産業とも呼ばれる知的財産、つまり知恵を加えた「10次産業」の時代だと考えています。

こだま・かつや
 安芸高田市高宮町生まれ。広島大大学院を経てスウェーデン・ルンド大で博士号取得。04年三重大人文学部教授、11年広報・地域戦略センター担当の副学長。専門は国際平和論、地域社会学、NGO論など。三重県地方自治研究センター副理事長、国際平和研究学会事務局長も務める。被爆者問題や平和構築の研究成果から、12年にインドの非暴力国際平和賞を受けた。

(2014年4月16日朝刊掲載)

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