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社説・コラム

社説 温暖化と原発 安易な選択 禍根を残す

 原発推進の根拠の一つに掲げられてきたのが地球温暖化防止への貢献である。化石燃料に比べるとそうかもしれないが、地球環境全体や事故のことも考えれば、それほど単純ではない。

 国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第3作業部会がまとめた報告書が、いみじくもそれを指摘している。

 温暖化防止のシナリオを実現するには低炭素エネルギーへの大転換が不可欠というのが報告書の結論部分である。この低炭素とは確かに、再生可能エネルギーとともに原発を指す。

 だが、報告書は各国に無条件で原発の新増設を促しているわけではない。再稼働に前のめり姿勢の日本政府にとっても、決して「お墨付き」とはならないことを見逃してはなるまい。

 その内容はこうだ。

 産業革命前に比べて21世紀末の気温上昇を2度未満に抑えるという国際目標を達成するには温室効果ガスの排出をゼロかそれ以下にしなければならない。

 それにはまず、総発電量に占める低炭素の割合を現状の約30%から2050年に80%以上へと高める必要があるという。かなり衝撃的な水準だ。

 それだけの原発が必要に思えるが、報告書には注釈が付く。原発は「温暖化対策への貢献度は増す可能性があるが、さまざまな課題やリスクがある」と。

 福島第1原発事故を意識しているのは明らかだ。大量の放射性物質をまき散らす事態となれば、人間の健康にも生態系にも計り知れないダメージをもたらす。住民の避難や賠償によりコスト面の優位性も揺らぐ。

 さらに放射性廃棄物の問題も避けて通るわけにはいかない。世界中で原発が稼働する今日、使用済み核燃料に含まれ、核兵器に転用できるプルトニウムが増え続けている。

 原発推進が温暖化のペースを緩めるにしても、それ以上に地球環境を台無しにするリスクからは逃れられないのである。

 一方で報告書は再生可能エネルギーについて「大規模に普及するまでに成熟した技術が増えた」と踏み込んで評価した。

 日本政府は、原発を重視するエネルギー基本計画を閣議決定したばかり。だが石原伸晃環境相はきのう「再生可能エネルギーを2倍、3倍とし、省エネを徹底するしか(温暖化防止の)道はない」と述べた。閣内不一致ではと皮肉も言いたくなる。

 日本原子力産業協会によると世界の運転中の原発はことし1月時点で計426基に上る。さらに建設中は81基、計画中も100基を数えるという。中国やロシアをはじめ新興国での旺盛な新増設の動きは、もはや後戻りできないようにみえる。

 しかし報告書は、低炭素の普及だけでは温暖化防止の目標が達成できないとも説く。つまり二酸化炭素(CO2)の排出削減だけでは足りず、地中深く大量のCO2を封じ込めておく技術が欠かせないというのだ。

 CCS技術と呼ばれ、世界で商業化された例はまだない。わが国があの原発事故を起こした責任を自覚するなら、この実用化・普及で貢献することが原発輸出よりも先ではないか。

 先日のIPCC第2作業部会の報告書は、温暖化が食糧危機や紛争さえも招く恐れを指摘した。今回もそうだ。まさに人類の英知と行動を問うている。

(2014年4月16日朝刊掲載)

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