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社説・コラム

社説 ウクライナ東部混迷 武力行使は許されない

 ウクライナ東部の混乱は、より深刻な事態を迎えたと言わざるを得ない。

 ロシア系住民の自治を求めるデモは銃撃戦に至った。暫定政府は、武装して政府庁舎などを占拠する親ロシア派集団に退去を求め、強制排除を表明した。軍も出動させる方針という。

 ロシア系住民が多く経済的な結びつきの強い南部のクリミア半島を、ロシアが編入したときから心配されていた事態だ。

 ロシア、欧米、暫定政府ともに言い分はそれぞれあろうが、流血を招く武力衝突はこれ以上、避けねばならない。

 なぜ深刻な事態なのか。クリミア半島の編入後、いったん落ち着いたように見えたが、このままでは内戦に発展しかねないからだ。

 ウクライナ東部はクリミア半島と同じように、ロシア系住民の割合が全土に比べて高い。それらの勢力が生活水準などへの不満を背景に、相次いで独自に「共和国」の樹立を宣言し始めたのがことの発端である。

 背景はまだ詳しくは分かっていない。にもかかわらず、国連安全保障理事会の緊急会合では、米ロの対立だけが際立った。米国は「組織的でプロフェッショナルな軍事行動」として、ロシアの関与を主張した。

 会合を求めたロシアはウクライナ暫定政府がデモ参加者の意見に耳を傾けないと批判した。米国に対しては「武力行使を奨励するのか」と詰め寄る場面もあったという。ここは米ロともに自制を求めたい。

 ロシアはウクライナへの天然ガスの供給を停止するとにおわせ、国境付近に数万人の軍を展開している。そうした行動が、欧米の疑心暗鬼を招くのは当然であろう。連邦制の導入を求め、ロシア系住民の保護を掲げている。ならば国境から軍を撤収し、少数派の権利を守るよう訴えていくべきだろう。

 それにしても暫定政府は、デモ隊の排除を強硬に進めてはいまいか。自治を訴えている自らの国民に対して「テロ行為」と断定し、軍を出動させるのは行き過ぎだろう。力で封じ込めるのであれば、ロシアによる軍事介入に口実を与えるに等しいのではないか。

 暫定政府は成り立ちからして不安定さは否めない。ロシア寄りの前政権が欧州連合(EU)との関係強化を棚上げし、それに対する反政府デモが発端である。大統領府など政権中枢を奪った野党勢力の集まりだ。

 地方でロシア語を事実上の公用語にできる法律の廃止を決めた。一方で、デモ隊が要求する各地方への権限委譲について、大幅な拡大を検討するとも言っている。

 暫定政府がこうした話し合いを尽くさず、安易に武力行使に傾くなら、欧米も支援を続けるわけにはいかなくなる。

 5月下旬には大統領選を控える。親ロシア派の候補はいないため、親欧米派の候補が当選する見通しという。当面は、この大統領選が公正に行われることに力を注ぐべきだろう。ただ、それでも国内の混乱の根本的な解決にはなるまい。

 17日にはウクライナとロシアの外相が、米国、EU代表を交えて協議を開く。これ以上、事態を緊迫させる動きをせず、外交努力による解決を目指すべきである。

(2014年4月15日朝刊掲載)

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