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社説・コラム

天風録 「オバマ氏の贈り物」

 選挙なしで米国の大統領になったのが第38代のフォード氏。前任のニクソン氏がウオーターゲート事件で辞し、副大統領から昇格した。大統領として初めて来日した人である▲この大国がベトナム戦争で痛手を負い、手を引いた後の1974年だった。日本の反戦ムードを意識したのか、フォード氏は車から突然降り、小旗を振る人の列に近づき握手までした。スキンシップを求めたのだろう▲40年の時を経て国賓の第44代オバマ氏を迎えた夜は、銀座のすし店でのおもてなし。お返しなのか、明治神宮では絵馬に「正義と平和」を交えた横文字をサインし、理系の若者には日本語で、ガンバッテと励ました▲こちらは包んできた贈り物に違いない。オバマ氏は「尖閣は日米安保条約の適用対象だ」と記者会見で述べた。安倍晋三首相はわが意を得たり、だろう。靖国参拝でぎくしゃくした仲が、トモダチを演出できたとして▲フォード氏の時代はベトナムの後始末に追われた。オバマ氏は船出には、強権外交をソフト路線に転じた。ならば、「核なき世界」にも一歩踏み込んだ言葉を聞きたかった。どうやら、ヒロシマとナガサキへの贈り物は包み忘れたのかもしれない。

(2014年4月25日朝刊掲載)

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