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社説・コラム

『記者縦横』 「核なき世界」へ一歩を

■報道部・田中美千子

 「やっぱりか」。ため息が出た。11、12日、核兵器を持たない12カ国でつくる「軍縮・不拡散イニシアチブ(NPDI)」が広島市で開いた外相会合でまとめた「広島宣言」。核兵器の非合法化をめぐる文言は一切見当たらなかった。

 非人道的な核兵器は今こそ違法化を―。核軍縮が進まない現状に業を煮やした国々が近年、市民団体とともに、そんな動きを強めている。被爆地で開かれるNPDIの出方は、がぜん注目を集めていた。

 協議前に中区の平和記念公園を訪れた外相たちは、心を動かされたかに見えた。感想を求めると「かつてない衝撃」「核なき世界へ努力を誓う」と異口同音に語った。それでも宣言で非合法化に触れなかったのは、議長国日本を含め核の力に頼る国の声を尊重したから。核軍縮の道のりの険しさを見せつけられた。

 「私は、見る映画を妻と決めるのにも議論になる。国益が絡めば一筋縄でいかないさ」。外相会合にゲスト参加したペルーのエンリケ・ロマン・モレイ大使に広島宣言の評価を問うと、さらりとかわされた。中南米の非核兵器地帯化に貢献したベテラン外交官だ。

 28日に米ニューヨークで始まる核拡散防止条約(NPT)再検討会議の第3回準備委員会で議長を務める。意気込みを聞くと「ハッピーエンドを目指すよ」とも。被爆者は「核兵器のない世界」へ、目に見える一歩を待っている。被爆地での体験をどうか忘れないでほしい。

(2014年4月25日朝刊掲載)

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