×

社説・コラム

波紋 特定秘密保護法 米軍機目撃通報すれば罰? 住民不安 低空飛行相次ぐ中国山地

対象見えず 萎縮懸念

 米海兵隊岩国基地(岩国市)で空母艦載機の移転計画が進む。米軍機が訓練飛行する中国山地で騒音の増大が懸念され、広島、島根両県の自治体は低空飛行の目撃や騒音のデータを集める。「情報の収集や提供は違法で、処罰されるのでは」。特定秘密保護法の施行に地元住民や市民団体は不安を拭えない。(野平慧一、桑原正敏、畑山尚史)

 「ゴーという地鳴りのような爆音とともに、谷間を縫って飛んでいった」。三次市作木町の岡本和彦さん(61)は憤る。2009年から所長を務めるカヌー公園付近でたびたび米軍機を目撃し、昨年6月に米軍機を写真撮影した。市が13年度から委嘱する米軍機監視の情報連絡員でもある。市北部の住民10人が目撃や騒音の情報を市に伝える。

 1年間で市に寄せられた情報は29件。米軍機が繰り返し低空飛行訓練をしているとされる「ブラウンルート」下の作木町は17件と最多だった。市は昨年2回、飛行中止を求めて国と米側に要請や抗議をした。

 同法は、防衛や外交などの情報を担当大臣らが特定秘密に指定し、漏らした人を罰すると定める。だが、何が秘密の対象になるのか見えず、岡本さんは「低空飛行の中止を求めて目撃情報を市に報告したら罰せられるのだろうか」と懸念。市地域振興部の福永清三部長(57)も「写真などの証拠を積み重ねても、市民の情報が特定秘密に指定されたら打つ手がない。もし市民が罰せられるなら、安心安全を守ろうとする地域の思いに反する」と話す。

 作木町では1981年9月、米軍戦闘機が墜落する事故が発生。小屋などを失った農業谷岡永子さん(75)は「当時、現場に近寄れず米側から説明もなかった。過去の事故ですら、記者の取材に応じても大丈夫なのだろうか」と不安を抱く。

 広島、島根両県で市町が騒音測定器を置く動きも広がる。西中国山地の訓練空域「エリア567」に市北部が入る廿日市市は、4月までに3カ所に設置。広島県北広島町も昨年1月から4カ所で測定する。だが、懸念は深まる。測定データなどから訓練を分析する市民団体「岩国基地の拡張・強化に反対する広島県西部住民の会」の坂本千尋事務局長(61)=廿日市市=は「訓練が特定秘密に指定されれば、自治体の測定結果すら非公開となる恐れがある」と同法廃止を訴える。

 軍事評論家の前田哲男さん(75)は「防衛のあらゆることが秘密とされ、処罰の対象になりかねない。市民に懸念を感じさせるだけで法は威嚇効果があり、市民の監視活動が萎縮する恐れもある」と指摘。「米軍が有事になれば、国は軍事情報を知られないように国民の監視を強める可能性もある」とみる。

(2014年4月26日朝刊掲載)

年別アーカイブ