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社説・コラム

天風録 「給料の上がりし春」

 花見でひねった安倍晋三首相の一句が尾を引いている。「給料の上がりし春は八重桜」。安冨歩東京大教授が短文投稿サイトで付け句を募ると、届くわ届くわ。「実の一つだになきぞ悲しき」「下がる非正規拳を上げる」▲企業の懐を揺さぶる「官製春闘」の手柄に首相本人は浸りたいのだろう。メーデー集会にも顔を出した。だがこちらの動きと重ね合わせば、句の趣は変わってくる。国会議員歳費の2割カットを月内で打ち切るという▲東北復興の財源と国会改革に「身を切る」証しだったはず。どちらも道半ばのまま、しれっと戻すお手盛りには国民も黙っていまい。それも8%という消費税増税の、「八重」の痛みに民が泣いているその折も折である▲自民党幹事長の言い分が振るっている。「議員の生活が困窮する状況はいかがか」と。片や、熊手やら何やらで億単位の金を右から左へと使う猛者だっている。まずは国会できっちり油を絞るのが話の順序ではないか▲議論が時間切れでなし崩しに―というのが与野党の大方のシナリオらしい。せっかちに過ぎる。先のTPP交渉で徹夜も覚悟の丁々発止を繰り広げた、あの粘り腰を。永田町に「春」はまだ早い。

(2014年4月27日朝刊掲載)

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