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社説・コラム

憲法 解釈変更を問う 元海上自衛隊ペルシャ湾掃海派遣部隊指揮官・落合畯さん 

隊員の身分・権限 明確に

丸腰派遣 世界の非常識

 「日本が攻撃されたら助けてほしい。しかし、あなたたちの国が攻められても、日本は助けることはできません」。今の状況ではこうなるが、とても世界で通じない。日本と同盟関係を結ぶ米国は、よく我慢していると思う。現在の国際社会は、特に安全保障分野では多くの国々が互いに補完し合っている。「平和憲法があるから」と言われても、となるのではないか。

 1963年に海上自衛隊入隊。呉地方総監部幕僚長、海自隊第1術科学校(江田島市)校長などを歴任。湾岸戦争後の91年、訓練を除き、自衛隊初の海外実任務となったペルシャ湾掃海派遣部隊の指揮官を務めた。

 当時、自衛隊の海外派遣に関する明確な根拠法はなかった。世論が大反対の中、自衛隊法99条「機雷等の除去」の範囲を広げて派遣できるようにした。

 湾岸戦争の休戦協定が成立しても、現地がすぐに安全になるはずはない。戦争でも平和でもない、どろどろとした期間が続く。派遣中ずっと米海軍に警護してもらった。われわれに与えられていた権限は正当防衛と緊急避難だけ。何かあったら逃げろ、と。丸腰のわれわれに、共同で任務に当たった8カ国からは「非武装で来たのか」とびっくりされた。日本の常識は世界の非常識だった。

 ただ、この派遣は、戦後日本の一つのターニングポイントになった。タブー視されていた自衛隊や軍備の在り方が、国会で正面から議論されるようになった。

 国連平和維持活動(PKO)への参加や周辺事態法の制定、イラク戦争…。憲法との整合性を問われ続けながらも、自衛隊の活動範囲は広がってきた。それでも自衛隊は創設以来、他国の人を殺さず、戦闘で死亡した隊員もいない。

 現場では、自分たちの任務だから、攻撃に遭う可能性があるとしても覚悟を持って臨んでいる。国家、国民に奉仕することを誇りに思っている。

 自衛隊は軍隊でないし、隊員は軍人ではなく国家公務員。ただ、国際社会では実質、軍隊に等しいと受け止められているし、私も軍隊だと思っている。部隊が派遣先で力を発揮できるようにするには、必要な法整備をして自衛隊員の精神的な基盤となる身分と権限をはっきりさせるべきだ。これまで何かあるたびに関連法案をつくってきた。その場しのぎだから大騒ぎになる。

 集団的自衛権の行使を認めれば、日本がかつて来た道を歩き、戦争するのではないかという意見がある。むしろ、戦争が起きないようにするための抑止力になるだろう。日本が攻めてくると思っている国があるだろうか。太平洋戦争の時のように国際社会で孤立してしまうことの方が心配だ。(聞き手は山本和明)

(2014年4月28日朝刊掲載)

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