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社説・コラム

憲法 解釈変更を問う 元外務省国際情報局長・孫崎享さん

日本の安保にマイナス

行使容認 テロ呼び込む

 集団的自衛権の行使容認をめぐる今の議論は、あたかも米国への攻撃に日本は何の行動も取らない印象を与えているが、実際には違う。日米安全保障条約の第5条は、日本の管轄地で日米のいずれかが攻撃された時、日米双方は自国への攻撃とみなし、憲法の枠内で行動すると定めている。

 1966年に東京大法学部を中退し、外務省に入省。駐ウズベキスタン大使や駐イラン大使などを歴任し、2002~09年は防衛大学校の教授を務めた。現在は外交問題の論客として活躍し、12年発刊の著書「戦後史の正体」(創元社刊)は22万部売れ、短文投稿サイトのツイッターのフォロワー(読者)は7万人を超える。

 政府はなぜ、集団的自衛権の行使を容認しようとするのか。安保条約第5条の「日本の管轄地」「攻撃された時」という二つの条件を外す狙いがあると、私はみている。対米追随の表れだ。しかしこれらの条件を外すことは、日本の安全保障にとってマイナス以外の何物でもない。

 極論を言えば、自衛隊は地球の裏側にも出て行くようになる。さらに相手の攻撃が前提でなくなれば、イラク戦争の二の舞いだ。米国の開戦理由は「サダム・フセインが大量破壊兵器を持っている。彼からの攻撃を待つ必要はない」というものだった。現実の事件ではなく「差し迫る脅威」という曖昧な解釈に基づく武力行使につながる。

 行使を容認すれば、日本は米国の要請を受けて動くことになる。しかし、ベトナム戦争、イラク戦争、アフガニスタン戦争のどれをみても、米国の軍事戦略は筋が悪い。そこに加担させられる。イラク戦争への参戦を背景に、英国ロンドンでは05年、同時テロ事件が発生した。日本も第三国のテロ行動を呼び込む恐れがある。

 1957年に起きた砂川事件をめぐる59年の最高裁判決を根拠に、憲法解釈の変更によって集団的自衛権の行使を容認しようとする自民党内の動きを批判する。

 逆の見方をすれば、半世紀以上もたった事件の判決しか引用できないということだ。いかに解釈変更の合法性を説明する根拠が貧弱かを示している。さらにあの判決では、当時の最高裁長官が事前に駐日米大使と密談するなど、手続き的に非常に問題があった。そのことも忘れてはならない。

 戦後日本の制度設計は悪くなかった。憲法9条で平和国家になっていくという、むしろ非常にいい選択をした。ベトナム戦争に韓国は兵隊を出したが、日本は9条を理由に出さなかった。不合理な軍事行動に加担して国際的な摩擦を生まない。その役割を9条は果たしてきた。われわれは、この価値をいま一度理解し直すべきではないか。

 集団的自衛権の行使容認をめぐり、今は幸い反対の世論が目立つ。「声を出しても何も変わらない」といった議論もあるかもしれないが、私はそうではないと思う。仮に行使の枠組みができてしまっても、国民の声は、現実に行使の可否を前にした政府判断に影響を与える。反対の声を上げ続けることが重要だ。(聞き手は松本恭治)

(2014年4月29日朝刊掲載)

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