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社説・コラム

天風録 「正義の宝剣?」

 「せりふは臓腑(ぞうふ)にたたき込め」。故伊丹十三監督に諭され、役者としての自意識に目覚めたそうだ。旭日小綬章に輝いた俳優の津川雅彦さんがきのう本紙で、40代のころを振り返っていた▲こちらのせりふは耳をふさぎたくなる。北朝鮮の報道官が自国の核兵器を指し、世界の秩序を守る「正義の宝剣だ」と述べたという。若き将軍の指示に従って台本を読んだのだろうが、言うに事欠いて、とはこのこと▲どの国であれ核兵器は宝でなく、持つことが正義でもない。あんなものに世界の秩序を託してはならない。4度目の核実験をすれば米国がきっと取り合ってくれる。そんな自意識があるなら、とんだお門違いだ▲あるいはもしや「抜かずの宝刀」のつもりなのか。実験を強行すると、手の内がばれてしまう。お粗末な技術力と知れる。宝の1字にそれだけの意味を込めたのなら、金正恩(キムジョンウン)劇場のシナリオライターにも心得がある?▲かの国が発するせりふはこのところ聞くに堪えず、報道するのもはばかられる。まっとうな正義であれば、臓腑に染み込んでくるはずだが。とはいえ核兵器に頼る周辺の国々は、諭す言葉の持ち合わせに欠ける。その現実もまた嘆かわしい。

(2014年4月30日朝刊掲載)

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