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社説・コラム

社説 比に米軍再駐留へ 中国との緊張 増すのか

 米国とフィリピンが新軍事協定を結んだ。冷戦の終わりを受けて22年前に撤退した米軍が事実上、再駐留するという。アジア太平洋地域の軍事バランスを変える大きな転換点となろう。

 オバマ米大統領はアジア重視を掲げて4カ国を訪問し、同盟国を守る姿勢を強調した。フィリピンも訪問先の一つだ。再駐留は、軍事力を増し、南シナ海への進出を強める中国に対するけん制にほかなるまい。

 だが、力を力で制する発想がそこにあるのではないか。この地域で中国との緊張が強まる懸念は否めない。

 今のところ中国は冷静に受け止めているようだ。とはいえ米国やアジア諸国は、軍事力に頼る方向ではなく、平和的な解決こそ目指していくべきだ。

 南シナ海では6カ国・地域が領有権を争っている。大半を自国領と主張する中国は近年、とりわけフィリピンの支配する拠点への圧力を強めている。南シナ海のほぼ中央、有望な石油資源のある南沙諸島では監視活動する兵士への補給を妨害し、ルソン島に近い北部のスカボロー礁を実効支配している。

 フィリピンにとっては米軍を後ろ盾にしたいところだろう。中国との軍事力の開きは隠しようがない。東南アジア諸国連合(ASEAN)の枠組みや国際法による解決では先行きが見えないのも確かだ。

 ただ、憲法は外国軍の駐留を禁じている。米国と協議を本格的に始めて8カ月での署名とは穏やかでない。一部の上院議員は最高裁に違憲判断を求める提訴の動きを見せ、首都マニラでは市民の抗議デモがあった。米軍も絡んだ、40年以上にわたる国軍とイスラム武装勢力との紛争が収束しつつある今、国内をかえって混乱させはしまいか。

 新協定は、米軍がフィリピン軍の基地を使えるほか、航空機や艦船の派遣ができるとした。かつてアジア最大の米軍拠点としていた南シナ海に面する湾への派遣を検討しているようだ。 オバマ氏は28日の記者会見で新協定の目的を「中国への対抗や封じ込めではない」と強調した。アジア訪問では中国との諸問題で中立な立場を崩さず、平和的な解決を目指すと繰り返し口にした。しかし今回の新協定は、東アジア回帰の軍事戦略とはいえないだろうか。

 米国はオーストラリアに海兵隊を駐留させ、シンガポールに海軍新型艦を配備するなど、南シナ海を囲むような軍の展開を続けている。かつてのフィリピン撤退によって米軍の影響力が低下し、中国の海洋進出を招いたとの見方が強いと思われる。

 だが、経済では米国や東南アジア諸国は中国と切っても切れない関係にある。対話で国際的なルールの枠組みに取り込む努力も見せるべきではないか。中国もオバマ氏のメッセージをくみ取る姿勢がいる。

 日本政府は新協定を歓迎している。中国の包囲網になるとの期待があるからだ。中国が南シナ海で軍事的な影響力を強めれば、東シナ海にある沖縄県の尖閣諸島への圧力も強まると警戒しているのだろう。

 注視したいのは在沖縄米軍の影響である。沖縄県民の願いである基地の返還・縮小ではなく、固定化させていく流れにつながりかねない。新協定に対する評価は慎重であるべきだ。

(2014年4月30日朝刊掲載)

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