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憲法は今 <上> 霧の中で 9条変更 若者に賛否

「国守る力」求める声も

 「今の憲法9条では国を守れない。だから外国になめられる」。4月最後の日曜だった27日。買い物客が行き交う広島市中区の本通交差点で、一人の男性がマイクを握っていた。

 東区に住む40歳代の会社員。2010年、沖縄県の尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視船に体当たりした事件を機に、街頭で訴え始めた。「自衛隊を国防軍化し、隣国からの攻撃に備えるべきだ」

 短文投稿サイトのツイッターでもつぶやき、フォロワー(読者)は約千人に上る。フォローする会社員山崎信也さん(27)=中区=は「昔は9条は必要だったのだろうけど、僕たちの世代には何の役に立っているのか」と共感している。

 領土問題や歴史認識の違いで、激しく日本を批判する中国や韓国。対して、自国の立場を主張し続ける日本。男性が県内各地でのデモで訴える「戦争放棄をうたう9条を変えて軍拡すべきだ」との主張は、国家主義的な思想をネットで発信する、いわゆる「ネトウヨ(ネット右翼)」の間でも当然のようになっている。

 ただ、軍事だけが不満の種ではない。「日本は、その隣国から外国人労働者の受け入れを拡大している。まずは国内の若者の雇用を確保するのが先だ」と男性は言う。

 ネット社会に詳しい津田塾大の萱野稔人教授(哲学)は「領土、雇用…。財政難の日本では国民のパイが減る中、それを守りたいという彼らの主張は決して異端ではない。日本の国力が縮んでいることに対する不安の表れだ」とみる。

 そのかじ取りを担う安倍政権。憲法改正ではなく、解釈の変更で、集団的自衛権の行使を可能にするシナリオを描いている。「強い国」にひた走るかのような姿勢は、国を憂える若者たちの思いとベクトルを一にしているとも見える。

 一方、終戦から69年。戦争を知らずに育った世代を親に持つ若者の中にも、実質的な改憲を急ぐ流れに対し、戸惑いがある。

 「憲法は、権力者を縛るための国の最高法規。権力者が簡単に変えていいのか」。広島修道大法科大学院(安佐南区)で法律を学ぶ平田裕也さん(24)と田中義正さん(29)は、そのスピード感に不安を抱く。

 田中さんは「国力の誇示でしかない軍隊なんか必要ない」と改憲に反対。かたや平田さんは「外国攻撃はしないが、国民を守る目的の軍事力は必要ではないか」と一定の理解を示す。意見は違うが「僕らが戦争に行かずに済んでるのは、9条があるから」との思いは同じだ。

 広島市西区出身の平田さんは祖母の被爆体験を、熊本県菊池市出身の田中さんは祖父の戦争体験を聴いて育った。田中さんは言う。「いつでも武力行使できる憲法になったら、その下で育つ次代の若者はどうなるのか。『対話で解決できなければ、武力で解決すればいい』という考えが、当たり前になりませんか」

 東西冷戦構造が終わりを告げて20年余り。今、北東アジアで日本に直接の被害が及びかねないほどの緊張が高まっている。護憲か、改憲か―。若者たちの思いは、振り子のように大きく揺れている。(加納亜弥)

 これまで憲法は主には9条をめぐってさまざまな議論が繰り返されながらも、その姿を変えることはなかった。施行から67年。憲法をめぐる今を切り取る。

憲法9条
 今の憲法は敗戦から1年余りたった1946年11月3日に公布、47年5月3日施行された。9条1項は「武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と宣言。2項で「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と定め、前文とともに平和憲法の象徴となっている。

(2014年5月1日朝刊掲載)

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