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社説・コラム

社説 憲法と安倍政権 与野党とも議論尽くせ

 安倍晋三首相のはやる気持ちがよく表れていよう。集団的自衛権の行使容認を目指すスケジュールが明らかになってきた。

 私的諮問機関の安保法制懇から報告書を受け、政府方針案をまとめる。与党との協議を踏まえ、閣議決定をする―。きのうのNHK番組で、高村正彦自民党副総裁は6月下旬に会期末を迎える今国会中にと強調した。

 憲法の根幹をなす9条の解釈を変えようという主張だ。安倍政権は主権者である国民への丁寧な説明と、議論を尽くすことを優先すべきではないか。与野党は論争を通じて問題点を洗い出す役割を果たすべきだ。

 秋の臨時国会では、自衛隊法、周辺事態法、武力攻撃事態法など5本の法改正を目指すという。安全保障政策への考え方を示す基本法がないまま、自衛隊の任務の拡大を想定して個別法に手を付ける。基本法は自民党が2012年の衆院選の政権公約で掲げていたはずであろう。まさに、結論ありきの進め方ではないか。

 経済政策のアベノミクスが一定に機能し、内閣支持率は安定している。安倍首相は、念願の行使容認へと踏み込むときとみているのだろう。

 首相自身の強い思いは伝わってくる。しかし、自分の考えと近い専門家を集めた懇談会や、反対意見を聞く国会審議を避けるかのような進め方をみると、民主主義の手続きを踏もうという姿勢は感じられない。

 このままでは、憲法解釈を変えてまで集団的自衛権の行使を認める必要があるか、国民にとって判断材料が乏しい。国際情勢の変化があるとはいえ、安全保障で切迫している状況とは具体的に何なのか。それは現行の憲法解釈や法律で対処できないのか。そもそも国の在り方を変えるというなら、どんな国を目指すのかも問われよう。

 自民党内の議論はどうか。戦争の惨禍を肌で知るベテランを中心に異論は出たものの、短期間のうちに限定容認論でほぼ一本化した。歴代の自民党政権は9条の憲法解釈と、現実の安全保障を両立させる努力を続けてきたはずだ。それにしては問題提起する議員が今はあまりに少なくなっている。

 憲法の原則である基本的人権とのバランスが問われた特定秘密保護法でも、反対意見はわずかだった。党内では小選挙区制の導入で、政策立案できる議員、腰を据えて憲法を議論できる議員が育っていないという指摘もある。これで政権を担う党の役割を果たしているのか。

 公明党の北側一雄副代表はきのうの番組で「スケジュールありきではない」とくぎを刺した。行使容認を認めない憲法解釈を尊重してきた姿勢を貫けるのか、正念場であろう。

 野党は、憲法解釈を変更する閣議決定に対して日本維新の会は賛成するようだが、民主党などは反発している。国会での議論が必要という声は強まっているものの、具体的な対抗策は浮かんでいない。

 本紙が先月末に中国地方選出の議員に実施したアンケートでは、8割が行使容認に賛同し、大半が限定的容認を支持している。衆参に憲法審査会はあるが、これまでに十分議論したとはいえまい。与野党の議員は、国会で審議を尽くすすべを探るべきである。

(2014年5月4日朝刊掲載)

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