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平和の願い 海超え共鳴 米女性の秘話 作家指田さんが絵本に

■記者 岡田浩平、新田葉子

 原爆投下後の広島の焼け野原で拾われた人形を、米国人女性が60年余り大切にしてきた―。国を超えて戦争の痛ましさに思いをはせた秘話を、児童文学作家の指田和さん(42)=埼玉県鴻巣市=が絵本にする。

 人形は今、広島市中区の原爆資料館の収蔵庫にある。布製で大人の手のひらほどの大きさ。赤い着物には裏地もあるが、袖はぼろぼろになっている。

 テキサス州在住のナンシー・ミーダーズさん(81)が終戦後まもなく、広島に駐留した友人の米兵男性から「広島の焼け野原に落ちていた」という手紙とともに受け取ったという。「人形の持ち主の女の子は逃げまどったのか、母親を捜し歩いたのか。リアルに想像し広島を身近に感じた。大切にしなければと思った」。ミーダーズさんは振り返る。

 自分の子どもたちが物心つくころには、人形を見せながら原爆の話を聞かせた。長年、箱に入れ鏡台に納めていたが一昨年5月、「永遠に保存してもらえたら」と息子を通じて資料館に贈った。

 この人形のことを、指田さんは資料館のホームページで知った。「被爆資料の中でも異彩を放っていた。当時は敵国民だった女性がなぜ人形を60年も持っていたのか、聞きたくなった」。ミーダーズさんと電子メールなどでやりとりし、今年4月には米国の自宅を訪れて取材。平和を願う思いに共鳴し、出版への意を強くした。

 ミーダーズさんは「戦争はひどい。私たちはもっと仲よくできるというメッセージが絵本に込められるだろう」と出版を喜ぶ。このほど原稿を書き上げた指田さんは「相手を思う気持ちが、二度と戦争を繰り返さないことにつながる」と力を込める。絵の制作などを経て、文研出版から来年5月ごろ出る。

(2010年7月30日朝刊掲載)

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