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社説・コラム

『潮流』 原発ゼロの夏

■東京支社編集部長・小川伸夫

 「原発ゼロの夏」がささやかれ始めた。政府は再稼働に前のめりだが、原子力規制委員会の審査や地元の同意に時間がかかりそう。このまま夏場に動かなければ、東日本大震災後では初めてとなる。

 乗り切るには節電の意識が欠かせまい。気が緩むときに思い出したい画像と出合った。「放射能を可視化する」とうたった放射線像だ。

 写真家の加賀谷雅道さん(32)たちが、オートラジオグラフィーという手法で画像化した。原理はエックス線撮影と同じで、放射線に感光する板に被写体を密着させて撮る。黒の濃淡でその強弱が分かるという。

 福島県飯舘村で2011年11月に採取したモミジの枝=写真。福島第1原発から降り注いだ放射性物質を強く浴びたのだろう。枝の黒点がかなり大きい。手を広げたような葉も薄黒く、所々に黒点が見える。

 震災が起きた3月、まだ葉は付いていなかった。春を迎えて芽吹き、成長する際に放射能を取り込んだらしい。見えない影を目の当たりにするかのような恐怖を覚える。

 動物の画像もあった。小鳥の内臓が薄黒いのは、被曝(ひばく)した餌を食べたから。羽の根元から先まで黒点が広がる大型の鳥は、放射性物質が舞う大気中を飛んだようだ。

 発達した筋肉には放射性物質が集まりやすいとも聞いた。なるほど、カエルの脚も、コイの背中や尾びれも黒々としている。

 本能的に身の危険を察するとされる小動物たち。だが、目に見えない放射能を前に、その力は及ばない。たとえ代を重ねても、そんな防御力を備えることは到底無理に違いない。いやそもそも、ない方がいい。

 再稼働の議論に、もっと誠実に向き合うしかないのだろう。初めて迎えるかもしれない「ゼロの夏」は、大震災で被曝した小動物を弔う季節ともいえそうだ。

(2014年5月8日朝刊掲載)

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