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社説・コラム

社説 防衛装備品の共同開発 これも成長戦略なのか

 緊張が高まる東アジアをにらみ、防衛装備品を欧州と一緒に開発する。安倍晋三首相からすれば、わが国が世界の安定に貢献する積極的平和主義の一環であり、日本経済の成長にも資すると言いたいのだろう。

 連休を利用して欧州6カ国を回った首相は、各国首脳との会談で安全保障面の協力強化をうたい上げた。さらにフランスのオランド大統領と合意したのが無人潜水機の共同開発だ。

 装備品はしかし、その開発・製造技術を含め、軍事転用されたり、第三国に流出したりする懸念がつきまとう。今回は、それらの防止策が不十分なままのゴーサインだ。理解に苦しむ。 無人潜水機は資源探査などのほか、軍事的な哨戒活動や機雷の破壊にも使われる。フランス側は、長時間の潜航を可能にする日本の燃料電池技術に関心があるとされる。一方の日本側は、中国が活動を広げる東シナ海などでの警戒監視に使う計画とみられている。

 ところがフランスは欧州連合(EU)最大の中国への武器輸出国であり、中東やアフリカ向けの輸出にも積極的とされる。日仏両政府は輸出に関するルールづくりも協議するというが、どこまで実効性のある禁輸措置が取れるかは疑問が残る。

 すなわち、わが国の技術が場合によっては中国にも流れるリスクは拭いきれないのが現状である。中国への対抗を急ぐあまりの共同開発が、かえって勇み足ともなりかねない。

 装備品について日本政府は昨年、英国とも対生物・化学兵器用の防護服の共同開発で合意している。被爆地広島からすれば核兵器保有国に廃絶を迫るよりも先に、防衛協力が着々と進む実態が腹立たしくもなる。

 共同開発した装備品が世界に拡散する懸念について、日本政府は先月に閣議決定した防衛装備移転三原則が歯止めになると言いたいところだろう。

 しかし、かつての武器輸出三原則にあった「紛争当事国になる恐れのある国」への禁輸は新三原則では明示されていない。そもそも相手国内での技術の転用を完全に防ぐことは、相当に難しいはずだ。

 先月中旬の共同通信社の世論調査で新三原則への反対が50・4%と過半数に上ったことも、なし崩し的な共同開発や輸出拡大に対する国民の根強い不安や不信感を物語っていよう。

 安保協力を主眼に置いた今回、日本と現地の思惑の違いがくっきり表れたのもフランスだった。オランド大統領が面と向かって安倍首相に、中国との対話を促した場面である。

 欧州は中国との経済的な結びつきを深めている。日本側の都合で中国にらみの安保協力を求めても、結局は「同床異夢」となりがちだ。むしろ東アジアの安定には日中の首脳会談こそが喫緊の課題だと、あらためて浮き彫りになったといえよう。

 東アジアとの関係で言えば、政府が来月まとめる新たな成長戦略に、防衛関連の技術や装備品を盛り込むか否かも大きなポイントとなる。

 わが国経済を成長軌道に乗せるには防衛産業の育成が欠かせず、結果的に日本発の技術や製品が地域を不安定化させても致し方ない―。政府がそうした発想に立つならば、もはや平和主義とは呼べまい。

(2014年5月9日朝刊掲載)

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