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社説・コラム

天風録 「女性の味方」

 目や耳を疑うとは、このことだろう。女性をはじめとする非力な者には「自衛手段として拳銃が必要だ」。身勝手極まる持論から3次元プリンターで拳銃を密造し、手元に置いていた神奈川の男が銃刀法違反の疑いで捕まった▲こじつけの理論武装に女性の味方を気取るとは、お門違いも甚だしい。あろうことか、「銃を持つ権利は基本的人権」とも。自衛権論議の熱気が回り回ってこんな所にまで…などと心配するのは、うがち過ぎだろうか▲1年近く前になる。頭に凶弾を受け、死線をさまよった16歳の少女が国連本部で弁舌を振るった。「本とペンを持って闘いましょう。それこそが最も強力な武器なのです」。銃で人々を黙らせることはできない、とも▲パキスタンで女子教育の必要を唱え、イスラム武装勢力に撃たれたマララさんである。非暴力の訴えは、とりわけ憲法9条を尊ぶ日本国民の胸を打ったのではなかったか。ノーベル平和賞の候補に今年そろって名を連ねているのも偶然ではあるまい▲闘うべき標的はむしろ、地球上にはびこる不正や貧困であり、その大本の無知であるはずだ。銃を持つのが人権などという妄想のコピーはもう、ごめんこうむる。

(2014年5月10日朝刊掲載)

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